2016年1月10日~31日に実施したカモ類の性比調査では、151の個人と団体の皆さんから、国内272地点の記録を送っていただきました(図1)。調査にご協力くださった皆様、ありがとうございました。
調査地点
多くの皆様に参加していただいて、この調査も3年目を終えました。これまでの調査地点数は、2014年が267、2015年が280、2016年が272と、毎年、ほぼ同じ地点数の調査報告が全国から集まっています。今年は中国地方からの報告がぐっと増え、関東や北海道からの報告も増加しましたが、中部と近畿からの報告は昨年よりも少なめでした。
調査方法
調査対象としたのは、以下の10種です。50羽もしくは30羽以上の群れを対象にオス・メスの個体数を数えました。なお調査地のカモの数が多い場合は、全数ではなく一部をサンプル調査している場合もあります。
50羽以上(8種) | オカヨシガモ・オシドリ・オナガガモ・キンクロハジロ・コガモ・ヒドリガモ・ホシハジロ・マガモ |
30羽以上(2種) | ハシビロガモ・ヨシガモ |
幼鳥の第一回冬羽から成鳥羽への換羽が遅いキンクロハジロやハシビロガモのような種では、調査時点で換羽していない幼鳥とメスを合わせた数がメスとして記録されており、そのような種ではオスの数が過小評価されている可能性があります。
結果
調査対象とした10種のそれぞれについて、2014年、2015年と同様に、オスの割合と、緯度、経度、そしてオス・メスの合計個体数との関係を分析しました(表1)。
ホシハジロ(図2)とコガモ(図3)では、3年間のどの年でも緯度との関連が見られました。この2種では、北に行くほど群れの中のオスの割合が高くなるようです。ホシハジロでは、3年間とも経度との関連も見られました(図3)。東に行くほど群れの中のオスの割合が高くなったのです。また、緯度、経度および個体数のいずれも、群れの中のオスの割合と関連が見られなかったという点では、オカヨシガモ、キンクロハジロ、ハシビロガモの3種で3年間同じ結果が得られました。
2015年の調査結果では、2014年と異なる傾向を示す種がみられました。今年の調査でも、2014年や2015年と異なる傾向を示す種がみられています。たとえば、オナガガモでは、2014年と2015年は、緯度、経度、個体数のいずれとも関連が見られなかったのですが、2016年の結果では、個体数が多いほどオスが多い、という結果になりました。また、ヒドリガモでは2014年には北に行くほどオスの割合が高い傾向が見られたのですが、2015年には個体数が多いほどオスが多い傾向が、そして2016年には、西に行くほどオスの割合が高い傾向が見られました。年によって、ずいぶんちがうものですね。
年によるちがいの要因は何でしょうか?食物の豊富さや、越冬場所の環境の変化など、考えられる要因はいろいろありますが、一つには、気候の変化があるかもしれません。2016年の調査期間中、1月18日は日本全国が大寒波にみまわれました。その後も1月下旬は記録的な寒気に覆われ、各地で大雪や暴風が観測されました。カモたちは、水面や水中、湿った水田などで採食します。低温で湖面が凍結してしまったり、水田が雪で覆われてしまったりしたら、食物をとりづらくなって移動せざるを得ないかもしれません。気候変化への反応が雌雄で異なっているとしたら、調査期間中のカモたちの移動は性比に影響を与えると考えられます。
そこで、1月18日の寒波前と後でそれぞれの種と、緯度、経度、個体数との関係を改めて分析してみました(表2)。すると、同じ種でも寒波の前後で示す傾向が若干異なっていました。たとえば、ホシハジロでは、北に行くほどオスの割合が多いことは、寒波の前後で変わらなかったのですが、東に行くほどオスの割合が高い傾向は、寒波の後には見られなくなっていました。1月後半の寒波は西日本にも記録的な雪をもたらしたそうなので、西日本で越冬していたメスの多い群れが東へ移動したのでしょうか?また、オナガガモでは、寒波の前には明確な傾向は見られなかったのですが、寒波の後では南に行くほどオスの割合が高くなり、さらに、群れの個体数の総数が多いほどオスの割合が高くなるという傾向が得られました。面白いことに、マガモでは、寒波後に北に行くほどオスの割合が高くなっています。寒波が来てもオスはそのまま残り、メスが南に移動したのでしょうか?それとも、寒波よりも春の異動を意識して、オスが北上してきたのでしょうか?
性比に影響する要因の解明は迷宮の入り口をのぞいているような気持ちですが、皆さんからいただいた貴重な調査結果を手掛かりに、彼らの冬の生態などを考慮しつつ、じっくりと謎解きをしていきたいと思います。