バードリサーチニュース

夜空を渡る鳥のその奥を見通す -地上光で判別する低空の鳥と船舶レーダーで捉える上空の鳥-

バードリサーチニュース 2024年7月: 1 【活動報告】
著者:高木憲太郎・田中涼太郎(弘前大学)・原星一

写真.地上からの光に照らされて夜空を渡るアカゲラ.撮影:原星一

 今年のゴールデンウィークに、龍飛崎へ行ってきました。バードリサーチ調査研究支援プロジェクトで支援している原星一さんによる夜渡る鳥の目視調査とのコラボで、弘前大学の田中涼太郎さんと3者共同で、船舶レーダーによる渡りの調査を実施するためです。
 目視で見えているのは低い高度を飛んでいる鳥だけだと思うけど、その上空の状況をレーダーで同時に見れたら面白いのではないかと、昨秋の夜の渡りの調査の際に龍飛崎にお邪魔し、原さんと意気投合したのがきっかけでした。

 

船舶レーダーを使って鳥を捉える 水平まわしと垂直まわし

行徳鳥獣保護区のコロニーから三番瀬の海へ次から次へと飛んできて,いったん沖へ出た後曲がってコロニーよりも東の海岸近くに着水して採食したカワウをレーダーで追跡した画面.同心円の中心がレーダーを設置した調査地点で,ひとつの円がそこから500mの位置を示す.赤が現時点のレーダーが捉えたものを、緑はその残像を表現している。海上の鳥と船以外のものは,主に竿.

 バードリサーチには、一台、鳥の調査用に使える船舶レーダーがありますので、それを出動させることができます。過去には、出雲地方からミヤマガラスが日本海を越えて朝鮮半島へと向かう様子を追跡したり、夜明けにコロニーから東京湾に採食に出かけるカワウの追跡をしたこともあります。これはどちらも船舶に載せた時と同じ水平方向にレーダーを回した調査です。カワウのレーダー画像にあるように、コロニーから飛び立ったカワウの群れが飛んで行く軌跡を追うことができます。目視で観察すると奥行き方向の距離がはっきりしませんが、レーダーだと2Dで捉えることができます。
 水平回しだけでなく、専用の台座を製作し、レーダーを垂直方向に回すという調査も実施しました。これにより鳥の飛翔高度を知ることができます。水平方向では、レーダーの出力を上げたり、感度を高くすると様々な障害物からの反射が強くなってしまい、追跡したい鳥の像が隠れてしまいます。海は構造物がほとんどないのですが、風邪が強く波が立っていると、その反射が邪魔になってしまいます。ところが、上空方向には障害物がないので,高出力でレーダーを動作させることが可能で,小鳥類をも捉えることが可能なのです。

 

春、北へ渡る小鳥を捉える試行と錯誤

レーダーのモニターに向かう田中さんと、奥のレーダーからこちらに向かって歩く原さん(上)。ほぼ完成形のレーダー基地化車両と奥のレーダー(中)。垂直に回したレーダーが捉えた鳥の軌跡(下)。

 今回は、来秋の本調査に向けた試運転でした。調査場所の詳しいことは話せませんが、津軽半島の先端、龍飛崎周辺から対岸の北海道へ夜中に渡る小鳥が対象です。私は1週間ほどの調査期間の最初と最後の方だけ参加でしたが、田中さんは毎晩夜通し調査をしていました。レーダーの設置場所を変えたり、レーダーの向きを変えたりしながらの調査です。レーダーのレンジ(何km先まで観測するか)、出力や感度(ノイズを抑えたりする各種の設定)なども変えて、いろいろテストができました。
 最初は見晴らしのよい高台で調査をしたのですが、ここは車から機材を運びあげなければいけません(写真上)。仲間が手伝ってくれる時は良いのですが、毎日撤収することを考えると、一人で調査するときに困ります。田中さんは最初トラックでレーダーを運んで来ていたのですが、小雨の時に調査ができなくなります。レーダー自体は濡れても平気なのですが、変換機やコンピューターはダメです。そこで、後ろがハッチ上に開くミニバンやワンボックスカーにレーダー関係の機器一式を積み込むように変更しました。これで、機器のセッティングも楽になり、雨対策もバッチリです(写真中)。ちょうど、調査中に小雨の降る夜があったのですが、もやのような帯状の影が上から降りてくる様子がレーダーに映りました。雨の降り方には強弱はありましたが、上空一面雨粒というわけではないことに少し驚きました。
 順調だと思っていた矢先、しっかりトラブルにも見舞われました。久しぶりの出動だったせいか、レーダーの画像をパソコンに取り込むための変換用の機器が故障し、運用を続けていると深夜にパタッと取り込みが止まってしまうのです。こちらがちょっと油断して目を離しているとそれが起きるので、おちおち居眠りもできません。慌てて購入しようとしたのですが、ほぼ廃版になっていて、ものすごい高値で売っているサイトばかり。ようやくメルカリに手ごろな価格で出品してくれているのを見つけて無事調達することができました。

 

 これから、種を識別できる目視調査と遠くまで見通せるレーダーの組み合わせで、どんなことを明らかにできるか・・・目視調査では、日によって観測できる鳥の数や種が異なります。低空を飛んでいる鳥たちにそうした変化があった時、上空では何が起きているのでしょうか?目視で観測できない時は、低空を飛ぶのをやめて上空高くを飛んでいるのか?月明りや気象などとの関係もあるので、面白い発見があることを期待したいと思います。

 

参考Webサイト
レーダーを使った渡り鳥調査
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/rader/index.html

レーダーでカワウの動きを捉える?!
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kawau/radar.html