食性データベースの登録件数が3000件を超えました!2023年12月から一段と登録数が増えてきています。ムクドリがカキノキの実を食べていた、というような採餌の様子は観察しやすいですが、小さな虫を食べていた場合などは双眼鏡やカメラがないと何を食べているのかの観察が難しいことも多いですよね。そもそもなかなか採餌の場面に出会えないということもあるでしょう。そこで今回は、登録数の多い上位10名(2023年11月時点)の方に、観察するときに使っている観察の装備やコツ、どういうタイミングや場所で観察することが多いか、食性を観察する動機や楽しさなどについてインタビューしてみました。登録記録数の多い人から順に紹介します。
皆さんのこれからの観察の参考にもなればうれしいです。
渥美美保さん 植物は図鑑で種同定(1人で600件以上の記録!!)
カメラと双眼鏡を首から提げ、左手にスマホを持ちながら、近所の川と河川敷、田畑にいる鳥を月に10回記録し始めて4年半。開けた場所なので目で追いやすく、餌を探している雰囲気があれば双眼鏡で見続けていると、「なにかつついている」「なにか食べた」と分かることが多いです。その先の「なにを」は挑み甲斐があり、カメラのズームを最大にして撮るか、食べ残した様子があれば飛び去った後にその場に足を向けてみます。植物の名前は、Google検索(主に画像検索)と、『樹木検索図鑑http://www.chiba-museum.jp/jyumoku2014/kensaku/』、『四季の山野草http://www.ootk.net/shiki/』を組み合わせて絞り込みます。残念ながら今のところ昆虫(水生も)や魚の特定はほとんどお手上げです。楽しさを感じるのは、上述のように写真や現地での物証から餌を特定する過程です。田んぼの側溝にトビが出入り?!→水のない側溝に干からびたミミズ。電柱で獲物をむしるチョウゲンボウ→電柱の下でスズメの羽を確認。電柱にレモン色の獲物をくわえたハシブトガラス→すぐそばに同程度の色づきのイチジクの木。河川敷でモズを追い、ニセアカシアのトゲにささった獲物発見→ドキドキ接近…皮が剥かれたカエル!などなど。
植村慎吾(筆者)
実は2位はこの記事の筆者の私でした。私は日ごろ、買い物の行き帰りや散歩中に鳥を見かけたときに、その鳥が何かを食べていそうだったら立ち止まって観察してみます。ドバトやムクドリ、ヒヨドリなどは肉眼でも餌が分かる距離で採餌していることも多いので、餌がわかれば記録し、餌がわからなくても場所や時間をスマホのメモなどに記録しています(食性データベースは餌不明の登録も歓迎!)。あとで時間がある時にそのメモをみながら食性データベースに登録するという感じです。どこかに出かけるときは、荷物に余裕があれば双眼鏡やカメラ(ニコン COOLPIX P950)を持って行き、行き先で鳥の採餌シーンに出会えたら少し時間をとって観察しています。私の場合、採餌の観察には双眼鏡よりカメラの方が使いやすいこともあるので、カメラだけ持って出ることも多いです。自分の中で、データが溜まったら調べてみたいテーマがあるとか、この地域や季節ではまだ記録が少ないからとっておこうとか、そういうちょっとした目標が色々とあって、どこにいてもつい記録をとりたくなります。データをとるという趣味は忙しく楽しいです!
鈴木遼太郎さん 常にアンテナを張っておく 採餌は数分間留まって観察
「食べる」という行為は鳥類にとって最も普遍的な行動の一つですが、餌内容・採餌の方法は、種ごと、年齢ごと、地域ごと、そして季節ごとに実にバラエティに富んでいます。私自身はバードウォッチングを趣味として10年ほどになりますが、鳥類の採餌行動はいつ見ても新たな発見があり、飽きることのない対象の一つです。
採餌行動の観察時に注意している点としては、いわゆる普通種でも「何をしているのか?」と常にアンテナを張っていることでしょうか。林で小鳥の群れが鳴き騒いでいた時、水辺でサギが餌を狙っていた時、最低でも数分間は留まって採餌行動が見られないかをチェックしています。また、カラスやハト類が地面でついばみ採餌をしている様子はよく見られますが、食物が非常に小さく、撮影しても分からないことが大半です。こうした時は、鳥が移動するまで待ち、地面の種子や昆虫を探して確認することもあります。
餌生物の同定は、常に悩みの種と言ってよいかもしれません。私自身は、魚類に関してはある程度の自信があるのですが、それ以外となると目や科のレベルでも分からないことがしばしばです。iNaturalistのように、観察者同士で相互に教え合うような体制が構築できれば、自身が苦手な分類群についてもより高い精度で同定できるかもしれません。
近年、野鳥の性・年齢・類似種の識別に着目する観察者は増えてきましたが、身近な鳥類の生態に関しては体系的な情報が少ないように感じています。今後、食性を含めた鳥類の生態に興味を抱くバードウッチャーの人口が増えることを期待しています。
田村ゆかりさん 鳥の可愛い食事風景を観たいということも観察の動機に
わたしの場合、食事の様子が見られるのは、散歩レベルの鳥見をしているときが多いので、機材は日の出光学の6倍双眼鏡とソニーのホームムービーCX430Vであることが主です。
珍しいものがいなくてじっくり観察しているときや、たまたま近くにいて食べているものがわかったときなどに、記録しています。食べているものがわかると、今後、その種を見つけやすくなるかもしれないという意識もありますが、単純に食事風景が可愛いということも動機になっています。
松下よし子さん 重装備のカメラ & 連写!
自宅の前にある川の堤防、近隣にある自然環境を活かして整備された公園などを歩きながら野鳥の写真を撮影しています。装備は2kg超、私にとっては健康づくりの為のウオーキング・筋トレ・BWがセットで、隙間時間を使ってのお楽しみ活動になっています。双眼鏡も持っていますが、動きの速い野鳥の特徴を瞬時にとらえて種類を特定することが自分には難しく、それならばと望遠レンズをつけたカメラでの撮影を練習しました。食性データベースに報告するときは「野鳥が採餌する構えに入ったときにピントを合わせて待ち、動き出した瞬間から餌を捕らえたと思われるところまで連写」しています。慣れるにつれて採餌の姿を捕らえることはできるようになりましたが、餌となる動植物の種類はとても多くて「あれは何?」という新たな課題が生まれました。PENTAX300のレンズ、カメラはPENTAX K3、途中からCONVERTERを入れて焦点距離を1.4倍にしました。レンズ越しに見える生き生きとした野鳥の姿や生き様には驚くことが沢山あります。
鳥居憲親さん 普段よく通る場所で移動の“ついで“ + 自分のテーマで調査
鳥の食性を調べよう!と言われると、何だか難しく聞こえるかもしれません。実際、鳥がいつ採食するかはその鳥の気分次第なので、採食シーンの観察にはある程度の根気が必要になってしまいます。はりきって出かけたのに空振りが続くと、調べる意欲もだんだん低下してしまいます。なので私は通勤経路など、普段よく通る場所で移動の“ついで”に、採食している鳥はいないかな?と探すようにしています。そうすることで、日常生活内にもともとある時間を使って無理なく繰り返し鳥たちの採食シーンを探すことができます。例えば、実のなる木がある公園や学校は肉眼でも観察しやすく、オススメの場所です。
一方、現在食性データベース内でやらせてもらっている「イソヒヨドリの越冬期の食性調査」は、イソヒヨドリはどんなものを食べているのだろう?という疑問でやっています。そのためこちらは、採食するまでイソヒヨドリの後をトボトボと付いて歩いています。冬の海岸で調べているので寒さ対策のカイロが必須ですが、観察するたびに味わう「答え」を知った喜びと、「この鳥はコレを食べる」というオリジナルの事実が自分の中に積み上がっていく嬉しさはひとしおです。
黒沢令子さん 裸眼派 餌を食べそうな行動に出会ったらじっくり観察
観察の装備:
偶然に見つけることが多いので裸眼が多いが、双眼鏡など。写真は極めて下手なのでカメラには頼らない。
コツ:
よく野外を見て観察する回数を増やす。鳥の姿を見かけたら、できる限り、眼で追う。鳥が何かを持っていたり、ごそごそ探しているような行動に注目して、しばらく見守ると、何を食べているのかわかることがある。
タイミング:
よく野外を見て観察回数を増やす。朝や夕方に見ることが多いが、日中でもある。
観察することが多い場所:
自然地域だけでなく、農地、公園や街中などいつどこでも。
食性を観察する動機:ある種の鳥が生活を営むのに、他種との違いを知る上でとても大事な行動なので、ずっと注目している。
楽しさ:
知られていない食べ物を食べたり、意外な行動をとるのに気づく機会もあって驚きや高揚感が得られて楽しい。例)壁に張り付いて虫をとるスズメ、カラスの貯食を失敬するアカゲラ等々。(笑)
大門聖さん 専門は昆虫!鳥との食う食われるの関係に注目
この度はご紹介いただきありがとうございます。この食性観察に携わるようになった動機として私の場合は学生時分に鳥類の巣に生息する昆虫を調べていた経験があり、鳥類と他の生物の相互関係に興味を持っていたからです。元々昆虫が専門なのですが、その後鳥類の調査などに関わるようになり、採餌物の中でどんな種類を、どのように食べているのかということに個人的に興味を持ち、以前から観察中などに見つけた場合は可能な範囲でフィールドノートに記録するようにしています。ちょうどバードリサーチさんで食性データベースのプロジェクトが立ち上がったのを聞いたので参加させていただきました。食性調査のコツなどは特にないのですが、たまたま採餌の様子を観察できた場合は写真や動画を撮ったりして餌の種類などを調べています。採餌物を調べる過程で他の生き物の知識が身についたり、食べなさそうなものを食べているのを観察できたりと面白い発見もあります。
菱田清和さん 餌になる植物はいつもチェック 採餌中を邪魔しないよう配慮
A持ち物
カメラ
野鳥観察に関してはNikon D850を使用。三脚や一脚は使わず手持ちで撮影しています。撮影距離が遠目であることが多いので画素数のあるものを使っています。
レンズ
単焦点レンズ AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRを使用。
食性行動している時間は短いことが多いのでピントが早く合うものを使っています。
遠い場合は×1.4のテレコンを装着しています。
双眼鏡、ルーペの使用。
薄暗い場所ではレンズを通しては見にくいこともあって、神津島ではNikon Sportstar EX 8×25を使って確認しています。道路上や草原の餌と思われるものはルーペで見るようにしています。
カウンターの使用
食性行動には直接関係しないこともあるのですが、群れで木の実や種子を食べに来ていることがあるのでカウンターを使って野鳥を数えています。
その他
食事をしているときの様子を動画に撮るために、時間的に許せるときは簡易デジカメでその様子を撮るように準備しています。
B採餌行動を見るコツや自身の行動
特に村道や林道でカーブしていたり分かれ道になっていたりする箇所付近は、野鳥にとって警戒心が弱まって採餌行動していることがあるのでいきなり姿を見せないように行動しています。
村道や林道脇の木の実や種子、道路脇の草原は餌となるものが何処にあるか四季を通してチェックしており、その場に近づくときは採餌していないか慎重に見るようにしています。
前日や朝方まで雨や強い風が吹いていた後は、特に道路上に餌となる木の実や種子が落ちていることが多いです。そのため、道路上に野鳥の動きがないかまずは双眼鏡を使って見るようにしています。
採餌行動を見たときは、いきなりカメラを向けず、また採餌行動している場所へ近づかず距離を保って、ゆっくりカメラを構えて撮るようにしています。なお、夢中になって食べているときは身を隠すような場所があればその場に移動して撮るようにしています。バイクに乗っているときは降車してバイクの後ろから撮っています。
晴れている日は太陽の位置に気をつけています。採餌行動していても逆行だとその姿を写真に撮れないことがあるので、探鳥のコースは太陽が逆光にならないようなコースを選んでいます。
どうしても、行き止まりの道で逆光な場合はいったん採餌行動を確認しても通り過ぎてからバイクを置いてから、しばし時間をおいて採餌行動していた場所まで歩いて戻り様子を見るようにしています。
何を採餌していたか不明なときは、野鳥が飛び去った後にその場にどのような物があるのか調べるようにしています。
その他
神津島の道路は狭くて車がすれ違うのも大変な村道や林道が多いのでバイクで移動しています。バイクだと何処でも駐車ができて通る車に迷惑をかけることのないように心がけています。
C食性を観察し始めた動機や楽しさ
野鳥を本格的に観察し始めた60歳定年後
現役の間は神津島に咲く花の観察や分布、保護などに目を向けていました(今も継続中)
花の調査などをしていたときには、木々や草花の果実や種子などに来る昆虫や野鳥などの様子に関心をもち始めていました。
しかしながら現役の頃は、時間的な制限もあってなかなか鳥の観察まで手を広げられずにいました。
2017年に神津島村に♪鳥くんこと永井真人さんが野鳥についての講演会があり、これを機に島の野鳥の生態や採餌行動について観察を始めることになりました。
そして野鳥を観察する視点が花と鳥との関係から、鳥から見た神津島の生態系へと広がりを見せました。
木々や草花に来る野鳥が採餌する物がムカデであったりバッタやカマキリ、トカゲ、ミミズ、魚などであったりと神津島の自然環境の豊かさに支えられて野鳥との共存があることを本で得た知識ではなく、実際に目で見て気付かされたことはとても新鮮でした。
また、現役の頃の花というと主に伊豆諸島に固有種としている物がメインでした。しかしながら、あまり意識をもって観察してこなかったマツやカラスザンショウ、ツバキ、トベラなどの木々やアシタバ、ススキなど島に多く自生する木々や草花の存在に改めて目を向けることにもなりました。
この視点の広がりの一因は野鳥の採餌行動の観察によるものであったと言えるでしょう。
これからも、楽しく神津島の自然体系を野鳥の採餌行動の観察を通して見ていければと思います。
西川光一さん 餌の同定が難しそうならその場で記録送信 わかる範囲で報告を
自宅から近い多摩川とその周辺で撮影の合間に観察、記録しています。撮影が楽しくて、足繁くフィールドに通ったため件数を重ねられました。
魚食性の鳥は獲物が比較的大きいので記録しやすいです。餌生物の種がわからなくても、時間帯、大きさ等が分かれば情報として有用かなと思い記録しています。
観察の記録は餌生物の同定などが調べても難しそうな場合にはその場で送信。何かわかりそうなら、時刻等を記録して持ち帰ります。採食時の写真があると後で役立ちます。
地域ごとの生き物をまとめた冊子やウェブページは同定に役立ちます。目星をつけるのにも使えますし、「これっぽい」と思った餌生物が実際にそこにいるのかが分かります。とはいえ、餌生物の種レベルの判別は難しいです。私の記録を確認したところ全33件の内8件しか同定できていません。
フィールドに出れば鳥の採食行動は見かけます。調査に報告できそうだと思い実際にすることもありますが、おおむねスルーです。採食していた鳥や餌生物について、調べていく中で諸々判定が微妙になり「やめておこう」となることもあります。わかる範囲で報告していくことが良さそうです。報告できると充実感があります。
食性データベースは、普通の鳥の普段の食べ物をひとつひとつ蓄積していくことを重視しています。全国各地から、年間を通じて、普段の生活や旅行中、探鳥中に見つけた採餌記録が集まっていけば、日本の鳥たちが生態系の中で持つ役割をだんだんと明らかにすることができるはずです。
皆さんからの記録をお待ちしています!
食性データベース 協力企画実施中!
2023年12月に開催した鳥類学大会2023のプログラムとして、それぞれの施設付近で見られる鳥と、観察できる鳥の食事のようすを紹介してもらいました。それに続いて、各施設で、食性データベースへの参加をよびかけるポスターを掲示してもらっています。
ぜひ足を運んでいただいて、情報を登録していただけると嬉しいです。
ブログ紹介
ブログでは、食性データベースに登録されているデータをみて気づいたことや簡単なまとめを紹介しています。
こちらもご覧ください!
カマキリを食べるカワガラスの写真
カワガラスが川の中でカマキリを食べているという記録。このカマキリはなぜ川の中にいてカワガラスの餌になってしまったのか(カマキリは何かの拍子に運悪く川に落ちたわけでも、蝶々なんかを追いかけて水辺に来ていたわけでもなさそう)、を解説しました。
ヒヨドリが食べる花のリスト
ヒヨドリは花や花芽を食べた・花の蜜や花粉を食べたという記録が多くあります。これまでの記録を月別のリストにまとめました。その後も続々と情報が届いています。新着ではタンポポの花を食べていたそうです。
他にもいくつか記事を書いています。
ちょうど旧ブログから新ブログに移行しまして、新しい方はスマホでも読みやすくなっています。