2024年度よりバードリサーチのスタッフに加わりました姜雅珺です。鳥に興味を持つようになったのは二つのきっかけがありました。一つ目は学部二年生の頃、中国浙江省の天童山への野外実習をきっかけに野鳥観察をし始めたこと、二つ目は千葉大学院に進学したとき、私に解剖の技術があることで鳥の翼標本を用いて、手翼形態と生み出される飛行機能を研究し始めたことです。今回はその研究について紹介したいと思います。
鳥の飛行について
「飛ぶ」というのは鳥類の極めて重要な特徴です。鳥は小型飛行体のようにかっこよく飛べるのではなく、不器用に羽ばたきながら空に飛んでいます。しかしながら、鳥の飛行の不思議なところは、どこからでも安定に飛べる・止まることができて、自然に存在する方向が均一ではない風を利用することができるということです。
鳥の飛行の研究の起源は、ルネサンス時代の実験生物学(Experimental biology)でした。20世紀前半固定翼の定常空力理論(Steady-state aerodynamic theory)が「空を飛びたい」という目的のもとに確立されました。その為、鳥の飛行そのものに焦点を当てた科学者はほとんどいなかったのです。従って、現在でも鳥がどのように飛ぶかの解釈は、人工飛行体の固定翼の空力理論に基づいており、鳥の飛行原理を示す直接的な実験証拠がほとんど存在していません(Videler, 2006)。また、鳥の翼は人工飛行体の翼と異なり、柔軟性があり、それぞれの形も異なっている羽毛から構成されている複雑な形態をもつ翼です。よって、鳥の飛行を研究する前に鳥の翼の形態特徴を知ることが先ず必要になります。幸い、20世紀後半に、別々に発展し始まった飛行装置の機能解剖学が確立されたことから、鳥の翼と羽毛の細かい形態特徴(形質)については、少しずつ知見が蓄えられています(Videler, 2006)。
現在、我々は鳥の翼にたくさんの機能を有する形質(機能形質)が存在していると知っています。しかし、その中に鳥の飛行に関わる形質(飛行形質)についての実験証拠が欠けているのが現状です。そこで私が手翼形態と生み出される飛行機能を研究し始めました。
鳥の手翼にある飛行形質!
鳥の翼では臂翼(arm-wing)と手翼(hand-wing)の二つの部分から構成されています(図1)。翼形態は飛行性能にかかわる重要な形質だと考えられていますが、多くの先行研究が鳥の翼先端形態と生息環境・飛行行動の関係を明らかにすることに失敗しています。その為、私は特に手翼に注目して研究を行っています。
手翼は初列風切り羽から構成されています。そして、それらの羽の形態は異なる為、違う鳥の手翼は異なる外形をしています。まず、手翼の飛行に関わる形質(飛行形質)を紹介します。今まで、特に注目された手翼の形態は三つあります:『翼端スロット程度(E,emargination)』、『翼先端形態指数(Ti,wingtip shape index)』或いは『手翼指数(HWI,handwing index)』です。まず、翼端スロット程度は図1に示しているような翼最先端の4本羽の間の隙間程度を表す指数です。翼端スロット程度が大きい鳥の翼は例えばチュウヒのような4本羽の間の隙間があります。一方、翼端スロット程度が0になる鳥の翼はアマツバメのような翼で、4本羽の間の隙間が全然ありません。翼端スロット程度は強く生息環境と関連していることが知られ、離陸と着陸に機能をすると考えられます(Klaassen van Oorschot B et al., 2017)。そして、翼先端形態指数は1より大きいときに翼先端がまるい形を示しています;1より小さいときに翼先端が尖っている形を示しています。また、手翼指数は翼の長横比を反映する指数です。翼先端形態は鳥の渡り行為や飛翔行動と強く関連すると証明されました(Lockwood, Rowan, et al., 1998)。
しかし、鳥においてそれらの飛行形質は本当に飛行機能にかかわるかどうかについてまだ研究する必要があります。そこで、私は翼端スロット程度と翼先端形態指数の二つ機能形質の機能を検証してみました。
滑空飛行性能が翼端スロット程度と相関する!
鳥の飛行機能(或いは性能)を測定する際に、飛行性能を表す指標の一つ「揚抗比」が使われています。揚抗比が大きい値になればなるほど飛行性能がよいといえます。揚抗比は、鳥を垂直に上げる力(揚力)と前進方向と逆方向の力(抗力)の比です。揚抗比は迎角(図2)の増大と共に増加します。、揚抗比は無限に増大できるわけではなく、翼の形態によりある迎角を超えた瞬間に急減します。それは、迎角が大きすぎるため、流れが翼表面に付着できないからです。その為、揚抗比は最大値があります。今回は最大揚抗比を指標として異なる翼形態間での違いを探しました。揚力と抗力を計測する時に風洞実験が必要になります(図2)。
私たち鳥飛行研究チームは海(ocean)、開けた場所(open)、森林(forest)に生息している鳥を12種選定し、手翼形態の異なる翼標本で定常風洞実験を行いました。その結果、翼端スロット程度の大きい翼は揚抗比が低いですが、翼端スロット程度の小さい翼は揚抗比が高いと分かりました(図3)。更に、飛行性能と鳥の生息環境・飛行行動の相関性を見てみますと、揚抗比は異なる生息環境・飛行行動間で著しく違います(図3)。
但し、この研究は定常風の前提下でのため、反映したのはあくまでも鳥が滑空飛行した際の飛行性能です。従って、今後、羽ばたき飛行の鳥は羽ばたく際の飛行性能も詳しく評価することが必要です。ここでの結論は、翼端スロットなしの翼は、より滑空飛行に優れた性能があります。そのため、海に生息している鳥は翼端スロット程度が小さい翼を持っています。
これまでの研究から、鳥の翼には未解明な形質がたくさん存在していることがわかりました。そして、鳥の飛行を理解するには、それらの形質の中に機能形質を探し出し、生息環境や飛行行動との対応を確認することが重要な作業となります。しかし、それだけでは足りないのです。機能形質を探し出した後、機械工学の研究者と共にその形質は本当に飛行の機能をするのか?もし飛行形質であったら、どんな機能をしているのかも含めてもう一歩研究し進めて行きたい。私の研究はまだ続いています。今後皆さんに飛行形質の具体的な機能を紹介できるように努力しています。
参考文献
Viscor G, Fuster JF: Relationships between morphological parameters in birds with different flying habits. Comp Biochem Physiol A Physiol 1987, 87:231–49. doi: 10.1016/0300-9629(87)90118-6
Lockwood, Rowan, John P. Swaddle, and Jeremy M. V. Rayner. Avian Wingtip Shape Reconsidered: Wingtip Shape Indices and Morphological Adaptations to Migration. Journal of Avian Biology, vol. 29, no. 3, 1998, pp. 273–92. doi: https://doi.org/10.2307/3677110.
Videler JJ: Avian flight. Oxford University Press 2006. doi: https://doi.org/10.1093/acprof:oso/9780199299928.001.0001
Klaassen van Oorschot B, Tang HK, Tobalske BW. Phylogenetics and ecomorphology of emarginate primary feathers. Journal of Morphology. 2017; 278: 936–947. doi: https://doi.org/10.1002/jmor.20686