バードリサーチニュース

研究誌新着論文:キマユムシクイの高山の記録,ウソの低山での繁殖の可能性

バードリサーチニュース 2024年3月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

 2本の論文が新たに掲載されました。いずれも寒冷な地域に生息する種の新たな分布についての報告です。

飯島大智・佐藤臨 (2024) 高山域における繁殖期のキマユムシクイのさえずりの記録.Bird Research 20: S19-S23.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.S19

 飯島さんと佐藤さんは乗鞍岳の高山域で2018年から2021年にかけてタイマー録音による記録を続けてきました。そして2021年のデータには,なんとキマユムシクイのさえずりが記録されていました。キマユムシクイの繁殖期の記録はこれが日本で2例目です。近年,ジョウビタキやミヤマホオジロの繁殖が増加したり分布が拡がったりするなど,冬鳥と思われていた種が繁殖するようになっています。今回のキマユムシクイの記録はそうしたものではないとは思いますが,情報の少ない高山域だけに,「もしかしたら」と思わなくもありません。飯島さんは高山での調査を続けているので,続報に期待したいと思います。

 

川路則友・松井晋・石倉日菜子・市原晨太郎 (2024) 北海道西部低標高林におけるウソの繁殖可能性.Bird Research 20: S25-S34.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.S25

札幌で捕獲されたウソの幼鳥


 川路さんたちは,2023年6月20日に札幌市南東部に位置する低標高林の鳥類標識調査地でウソの幼鳥2羽を捕獲しました。ウソの繁殖時期としてはかなり早い捕獲記録であることと,これまで知られているウソの生態をあわせて考えると,高標高地で巣立った個体が低地へ移動してきたのではなく,低標高林で偶発的に営巣した巣から巣立った可能性が高いと考えられました。全国鳥類繁殖分布調査の結果から,高標高の鳥には減少傾向にある種が多いことがわかってきています。反面,キクイタダキのように低標高の林に分布を拡げてきている種もいることもわかってきています。ウソはおそらく前者の温暖化の影響で減ってしまうタイプの鳥だと思っていたのですが,こうした記録を見ると,もしかすると低標高へと分布を拡げられる種なのかもしれません。今後のウソの動向に注目したいと思います。