今月は3本の論文を掲載することができました。鳴き声のAI認識の論文と巣箱カメラを使った沖縄のヤマガラの繁殖生態,そしてサーモカメラをつかった営巣調査の試みについての論文です。
佐藤匠・前川侑子・芳賀智宏・牛込祐司・町村 尚・松井孝典 (2023) 深層学習をもちいた鳴き声による鳥類の種判別システムの開発と今後の展望.Bird Research 19: A31-A50.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.A31
18巻でサシバの声をAI認識した論文を掲載しましたが,今回は対象種を大幅に増やして,66種を認識することできたという論文です。明瞭で大きく録れている音源,同時に多種が鳴いていない音源を対象にした研究なので,実際に野外で聞く音と比べるとかなり条件の良い音源での成果ですが,これだけ多くの種の識別ができるようになり,また,ジョウビタキとルリビタキの地鳴きのように,聞き分け難易度の高い種も高精度で識別できるなど,昨年のサシバの識別からは日進月歩な感じです。今後,実際の調査に使う上での課題も整理されていますので,今後の発展に期待したいです。
関伸一 (2023) 沖縄島の亜熱帯照葉樹林におけるヤマガラの繁殖生態.Bird Research 19: A51-A61.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.A51
巣箱にトレイルカメラを改造した「巣箱カメラ」を設置して(図1),ヤマガラの産卵時期,繁殖成功率などを調査した論文です。巣箱カメラを使ったことで,コロナで島に行きにくくなった2020年も十分なデータを取ることができたということで,沖縄のヤマガラは他地域と比べて一腹卵数が少なく,繁殖時期も早いこと,捕食率が高い可能性などが明らかになりました。
この巣箱カメラ,関さんに教えてもらって,この繁殖期から,バードリサーチでも埼玉の秩父演習林で試験的に使い始めています。秩父は湿気の多い沖縄と比べて,カメラへの負荷は低く,途中で止まってしまうようなカメラもなく,順調にデータをとれました。ただ,ヤマガラが大量の巣材を運び込むので,カメラと産座との距離が近くなってピントが合わなかったり,産座が画角の外に出そうになったりと課題もありますが,バードリサーチでも「巣箱カメラ」での情報収集を進めたいと考えています。
上記論文サイトからは,巣箱カメラで得られた写真を動画化したものを見られます。最初,巣材に葉っぱが運び込まれていて「沖縄のヤマガラは葉っぱなんて使うの?」と思ったのですが,よく見ると運び込んでいるのはアカヒゲで(親が映っています)。その後,巣箱の利用者がヤマガラに代わり,コケで巣が作られ,巣立っていきます。また,巣箱カメラの作り方や運用の方法の情報もあり,付録も充実しているので,ぜひ見てみてください。
三上かつら・森本元・上野裕介・三上修 (2023) サーマルイメージングカメラをもちいた固定式視線誘導柱の表面温度測定と小鳥類の営巣調査の試み.Bird Research 19: T1-T10.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.T1
最近は,電柱の穴の中にスズメがよく営巣しています。「よくこの電柱につがいでとまっているからここに巣があるんだろうな」とは思いますが,本当に営巣しているのかを確認するのは,しっかり観察しなければなりません。簡単に確認できる方法があったら調査がはかどります。そこで,三上さんたちは,サーマルカメラを使って穴の中で鳥が営巣しているかを検出できるかを試みました。
結論からいうと,その目論見は失敗でした。羽の断熱効果もあって鳥は期待するほど温度が高くないのと,日中は巣を覆っている金属などの表面温度も高くなるので,穴の中に鳥がいるかを検出するのは難しいのです。しかし,1例ですが,巣箱の中に鳥がいるのを検出できた事例があったので(図2),条件次第では,検出することも可能なようです。
植田ほか(2007)は,温度ロガーを使った調査で,ヒナが大きくなって,かつ羽毛がまだ生えそろっていない段階で巣箱内の温度が高くなることを示しているので,巣がこういう条件の時にはサーマルカメラで検出できるのかもしれません。また,気温の高い日中はダメでも,夜ならできるかもしれませんし,さらに気温の低い冬のねぐら利用ならわかるのかもしれません。もうすこし可能性をつきつめる必要がありますね。