日本の鳥の公式目録は日本鳥学会が定期的に改訂しています。その第8版は現時点では2024年9月発行の予定です。この発行に先立ち,2023年9月30日に,掲載種のリストが公開されました。645種(+人為導入種47種)が掲載されています。この第8版の大きな変更について紹介します。
鳥学会公表のリスト:https://ornithology.jp/iinkai/mokuroku/index.html#20230930
見やすくしたリスト:https://www.bird-research.jp/1_shiryo/8ed/
種が分割され複数種になったもの
2012年に改訂された第7版では,メボソムシクイがメボソムシクイ,オオムシクイ,コムシクイの3種になるという大きな変化がありました。同様に分類研究の進展で複数種であることがわかり,分けられたものが,8版では以下の9種います。「ライフリストが5種増えた」なんて人もいるんじゃないでしょうか?
前回のメボソムシクイの際に,分割後の種名に「メボソムシクイ」という名を残したことで,調査データを集計する際や,バードウォッチャーの観察記録をデータベースする際に混乱が生じました。目録が変更されたとしても,全員がその変更を知っているわけではないですし,変更を知っていても昔の癖で「メボソムシクイ」と書いてしまう人もいます。そのため,改定後の「メボソムシクイ」という観察記録が,オオムシクイも含む「旧メボソムシクイ」なのか,「新メボソムシクイ」なのかがわからなくなってしまったのです。そしてその問題は,10年以上経った現在も,おそらく残ったままです。2021年まで行なった「全国鳥類繁殖分布調査」でも現地調査の「メボソムシクイ」の記録が,確認してみたところ,オオムシクイだったことがたくさんありました。
今回の改訂では,同様な問題が生じる種としてサンショウクイがあります。これについては,パブリックコメントや,学会大会の集会で問題提起し,新しいサンショウクイの種名を「サンショウクイ」ではなく「ウスサンショウクイ」とするという方針も一時は出ていたのですが(西海 2022),結局「サンショウクイ」になってしまったのは残念でした。このままですと,前回のメボソムシクイの問題をくりかえすことになってしまいますので,バードリサーチの情報収集では,後述するように「亜種サンショウクイ」の名前を使って情報収集をすることで,この問題に対処しようと思います。それ以外の種については,島に生息していたり,数少ない旅鳥や冬鳥なので,同様の問題は生じにくいと考えています。
これまで | 第8版の種名 |
サンショウクイ | サンショウクイ,リュウキュウサンショウクイ |
ヤマガラ | ヤマガラ,オリイヤマガラ(石垣/西表島に生息) |
ウグイス | ウグイス,チョウセンウグイス |
トラツグミ | トラツグミ,ミナミトラツグミ(亜種オオトラツグミ,奄美諸島に生息) |
ツグミ | ツグミ,ハチジョウツグミ |
アカヒゲ | アカヒゲ,ホントウアカヒゲ(沖縄本島に生息) |
キビタキ | キビタキ,リュウキュウキビタキ(南西諸島に生息) |
カワラヒワ | カワラヒワ,オガサワラカワラヒワ(小笠原諸島に生息) |
アオジ | アオジ,シベリアアオジ |
注)これらとは別に人為導入種のコウライキジは以前はキジの亜種でしたが,タイリクキジ(名称未確定)と別種扱いになりました。またアホウドリも2種になるが,まだ学名等が決まってないとのこと
種が統合されてなくなったもの
逆に2つの種が同種(亜種扱い)になったものもいます。
カナダカモメ → アイスランドカモメの亜種に
キアシセグロカモメ → セグロカモメの亜種に(亜種名はモンゴルセグロカモメ)
コベニヒワ → ベニヒワの亜種に
種名が変わったもの
セグロミズナギドリ → オガサワラミズナギドリ
第7版には含まれていたが削除されたもの
識別した根拠が不十分などの理由で,以下の23種は「検討中の種」に移動して,目録の掲載種からは削除されました。皆さんが観察した種で以下のリストに載っている種があったりするでしょうか?もしあったら,ちょっと面倒と思ってしまうかもしれませんが,日本鳥学会の観察記録やBird Research誌,Strixなどに投稿してください。それが第9版でこれらの鳥が目録に掲載されることに繋がります。
マンクスミズナギドリ,コモンクイナ,ヒマラヤアナツバメ,アメリカムナグロ,オオハシウミガラス,カタグロトビ,ヨーロッパチュウヒ,ウスハイイロチュウヒ,ヒガシメンフクロウ,アオショウビン,ワキスジハヤブサ,モウコアカモズ,ミドリツバメ,ニシイワツバメ,キバラムシクイ,セスジコヨシキリ,イナダヨシキリ,クロウタドリ,チャバラオオルリ,ウィルソンアメリカムシクイ,レンジャクノジコ
種の順番や分類の変更
種の並び順は,基本的にはIOC World Bird List ver.13.2に準拠したそうです。第7版ではキジ目からはじまっていましたが,第8版はカモ目からはじまるなど,結構変わっています。目レベルでの変更はありませんでしたが,科レベルでは第7版でヒタキ科と統合されてなくなったツグミ科が復活したのが大きな変化で,大型ツグミと言われていた種がツグミ科に属しています。ただし小型ツグミやイソヒヨドリはヒタキ科のままです。属レベルが変わったものはたくさんあり,日本鳥類目録改訂第8版関連資料に学名が変った種をまとめて示していますので,ご覧ください。
https://www.bird-research.jp/1_shiryo/8ed/
「フィールドノート」での対応
バードリサーチの野鳥記録データベース「フィールドノート」も、種の並び順はまだ第7版を踏襲していますが、第8版と同じ種名と亜種名に対応しました。
新しい種名の入力ができるようになったほか,既存データについてもできるだけ変換をしました。
お願いしたいのは,リュウキュウサンショウクイを含まない「新しいサンショウクイ」を入力する際には,「サンショウクイ」ではなく,「亜種サンショウクイ」と入力することです。分類が変わったことを知らない人や,知っていても,これまでの癖でリュウキュウサンショウクイを「サンショウクイ」と入力してしまう人が必ずいるので,今後の「サンショウクイ」の記録は実質的に「サンショウクイ類」としか使えなくなってしまいます。そこで,「新しいサンショウクイ」を明示的に記録するために,「亜種サンショウクイ」と入力してください。
その他の種の対応や詳細については,https://www.bird-research.jp/1_shiryo/8ed/をご覧ください。