今月はあらたに3本の論文がBird Research誌に掲載されましたので,紹介します。
三上 修 (2023) 鳥類繁殖分布調査の第2回(1997-2002)と第3回(2016-2021)の間に見られるスズメの減少.Bird Research 19: A21-A30.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.A21
2016年から2021年にバードリサーチが中心となって行なった全国鳥類繁殖分布調査の現地調査の結果を1997年から2002年にかけて行なわれた過去の結果と比較した研究です。これまでも,統計資料に基づき,スズメの減少度合いの推定が行なわれていましたが,今回はより高い精度で減少を推定することができていると考えられ, 18年間で62.1%に減少していると推定されました。また,農地面積が広く気温が高い場所で減少傾向が大きいという結果が得られましたが,その減少は,土地利用の変化では説明できませんでした。土地利用の変化を伴わない食物の減少や,営巣場所の減少が考えられますが,現時点ではそれが何なのかははっきりしません。今後,全国鳥類繁殖分布調査の追加調査として,それを明らかにするような調査もしていきたいですね。
多田英行・越山洋三 (2023) 湿地性猛禽類チュウヒの古巣から採集された昆虫類.Bird Research 19: S5-S13.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.S5
鳥の巣は,その鳥だけでなく,多くの昆虫の生息場所になっていることが知られています。巣は鳥が繁殖ができるような快適な空間ですし,巣材や食べ残しや糞,羽などがあり,それが昆虫の食物にもなるためです。これまでは樹上につくられる巣に生息する昆虫が調べられてきましたが,湿地の地上の巣にはどんな昆虫の生息地になっているのでしょう。それを調べたのが今回の研究です。2022年10月にチュウヒの巣を回収し,その中に棲む昆虫種を同定したところ,6目9科14種の昆虫が確認されました.これまでの研究では鳥の巣には腐食性昆虫が多いことが知られていますが,それが少なかったのが特徴でした。その理由として,著者はヨシでつくられるチュウヒの巣は隙間が多くて,羽などが留まりにくいことや,巣の回収時期が遅く,腐食性昆虫にとって栄養的価値の高いものが風化してしまったことを考えています。その理由を明らかにするには,まずはチュウヒへの影響を避けつつ,巣立ち後できるだけ早い時期に巣を調べることが重要そうですね。
安藤温子・市石 博 (2023) 伊豆諸島八丈小島におけるカラスバトの営巣状況.Bird Research 19: S15-S22.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.S15
カラスバトは日本に広く分布する鳥ですが,離島にのみ分布していることもあり,巣の確認事例は多くありません。そこで,カラスバトが高密度に生息する伊豆諸島の八丈小島で巣を探し,そこに自動撮影カメラを設置して,出入りの状況を調査したのがこの研究です。カラスバトの巣は樹上だけでなく,地上でも確認されました。3つの巣に自動撮影カメラを仕掛けてモニタリングを行なったところ,給餌のため親が巣に出入りする時間帯は,午前中と夕方にピークがありました。八丈島と八丈小島の間を多数のカラスバトが移動することがBR誌13巻で報告されていますが,その移動の多い時刻とよく一致していました。捕食者のあまりいない八丈小島で繁殖し,広くて食物の豊富な八丈島に採食に行っている可能性が高そうだということです。