今月は2本の論文が掲載されました。コウライクイナの本州初記録の報告と,緯度経度に基づく越冬鳥類の分布位置の指標値についての論文です。
瀬川良晃 (2023) 秋田県能代市におけるコウライクイナの本州初記録.Bird Research 19: S1-S4.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.S1
瀬川さんは秋田の海岸砂防林「風の松原」の水場に飛来する鳥の観察中,コウライクイナを観察・撮影しました。これまでの日本の記録は,沖縄島,北海道渡島大島,天売島と島嶼部だけで,本州では初となる観察記録でした。観察された日の前に本来の生息地である大陸側から強い風が吹いた日はなく,風で流されてきた個体が記録されたというわけではなさそうだということでした。クイナ類は藪に潜み,観察の難しい鳥で,繁殖・越冬している種でさえ,プレイバック法など調査方法の確立で分布がはっきりしてきているような鳥たちです。渡り途中の鳥はさらに気づきにくいでしょうから,意外とコウライクイナも気づかれていないだけで,各地を通過しているのかもしれません。動画も公開されていますので,ご覧いただき,今後の観察の参考にしてみて下さい。
植田睦之・奴賀俊光・山﨑優佑 (2023) 日本の各種鳥類の越冬期の分布位置を示す指標値.Bird Research 19: R5-R8.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.R5
先日公開した全国鳥類越冬分布調査の結果をもとに,越冬鳥類の分布を緯度経度で表現した論文です。世界的にはこうした鳥の分布は気温で表現されることが多く,それを基に気候変動の鳥への影響の研究が進めています。しかし今回の越冬分布調査は40kmメッシュと大きなメッシュで調査しているので,山がちな日本ではメッシュ内の標高差(=気温差)が大きく,気温で分布を表現するのが難しいことと,南西から北東方向にのびている日本列島の地理的特性から緯度経度で分布を表現することにしました。今後はこの値を使って,各種鳥類の越冬分布の変化と生態特性や分布特性との関係など解析を進めていきたいと考えています。