バードリサーチニュース

第8回インターネット・バードソン 3,293カ所で295種を観察 コガモとホシハジロは緯度・経度に比例してオスが多くなる

バードリサーチニュース 2023年3月: 3 【参加型調査,活動報告】
著者:神山和夫

 インターネット・バードソンは、全国のバードウォッチャーが一定期間内の観察を野鳥を野鳥記録データベース「フィールドノート」に登録して種数を競う競技です。 2023年1月1日~15日に開催した第8回大会には361名の方が参加して、3,293カ所で4,314回の観察記録が登録されました。観察された種の総数は295種でした。観察頻度の高い種を見てみると、1位のヒヨドリは昨年春のインターネット・バードソンでも1位だったので、年間を通して一番見やすい野鳥と言えるかもしれません。冬鳥は、小鳥ではツグミとジョウビタキが10位台に登場している他はカモ類が多く、冬鳥全体のトップは14位のコガモでした(表1)。

表1. インターネット・バードソンで記録が多かった種。オレンジが冬鳥(カモ類で国内繁殖する種は含めない)。

カモの性比調査

 今回のインターネット・バードソンの観察テーマは、カモの性比、コブハクチョウの分布、トモエガモの全国総数と3つありましたが、この記事ではカモの性比調査の結果を紹介することにして、あと2種は後日報告いたします。

 はじめに、報告が多かったカモ類の性比を群の総数に対するオスの比率で見てみましょう。図1は今回の調査と2014-16年1月に実施した前回調査の結果と並べています。このグラフは箱ひげ図というもので、箱の内部に全データの50%が含まれ、箱から伸びるヒゲの上下端がオス率の最高値と最低値になっています。箱の内部の横線で示されるデータの中央値を見ると、いずれの種もオス率の中央値が50~60%くらいで前回調査に近い値になっています。いちばんオス率が高かったのはホシハジロで、約70%がオスであることがわかりました。

図1.1月のカモの種とオス率。種ごとに左が2023年、右が2014-16年。ヨシガモとハシビロガモは30羽以上、その他は50羽以上の群れ。なおハシビロガモとキンクロハジロは羽色によるオス幼鳥とメスの識別が難しいため、オス率が過小評価になることに留意。

 カモ類は生まれたときは雌雄同数ですが、メスだけが子育てをするせいで捕食されやすくなるために、オスの数の方が多くなっているようです。以前のニュースでお伝えしたように、ヨーロッパでは減少が進んでいるホシハジロのオス率が昔より高くなっていて、その原因として天敵の増加により育雛中のメスが捕食されやすくなっていることや、メスのほうが狩猟で撃たれやすい可能性が指摘されています。日本でもホシハジロは急速に減少している種なので、減少要因の手がかりを得るために性比の経年変化をモニタリングしていけるといいと思います。

 なお、調査結果にあるうちハシビロガモとキンクロハジロはオス率には注意が必要です。この二種はオス幼鳥の換羽時期が遅いために調査をした1月時点ではオスの幼鳥がメスに誤認されている可能性があり、オスの数が過小評価になっていると思われます。カモの性比調査はオスとメスの数そのものを知りたいのではなく、性比の地域差や長期的な変化を調べることが目的なので、オスが過小評価でもデータは役立つのですが、これらの種では、たとえばオス率が高いときには、メスが少ない可能性と幼鳥が少ない可能性の両方を考える必用がありそうです。

 次に、グラフの箱の部分の長さに注目してみましょう。箱内部にはデータの50%が含まれると書きましたが、そうすると箱が縦長の種ほどオス率のバラツキが大きいことになります。図1では箱が長い種と短い種があるようなので、年ごとの箱の長さ(四分位範囲と呼ばれる数値)のグラフも作ってみました(図2)。すると、ヒドリガモ、マガモ、ヨシガモは箱が短く、オス率のバラツキが小さいようです。ここからは想像ですが、私が調査のときに見ていると、これらの種は1月時点でかなりのオス・メスがペアになっているようでした。一方で、箱が長細いキンクロハジロ、コガモ、ハシビロガモ、ホシハジロはペアの形成が遅いために雌雄の割合が均等になりにくいことが、群によってオス率の違いが大きくなる一因なのかもしれません(図3)。今後、カモの種によってペアの形成時期がどうなっているかも調べてみると興味深いだろうと考えています。

図2.カモ類のオス率の四分位範囲。値が大きいほどオス率がばらついている。

図3.1月時点でマガモ(左)はペアになっているものが多く、コガモ(右)はペアが少ないのかもしれない。

 さて、オス率のバラツキが大きいことには他にも理由があり、それはオスとメスの居場所に地域差ある場合です。2014-16年の前回調査では、データを統計分析したところ、ホシハジロとコガモは3年を通して北へ行くほどオスが多く、さらにホシハジロは3年とも東へ行くほどオスが多くなる傾向のあることが分かっていました。今回の2023年の調査でもホシハジロとコガモの両方で、北へ行くほど、そして東へ行くほどオスが多くなる傾向が見られました(図4)。ハジロ類では北へ行くほどオスが多いことはヨーロッパや北米でも知られていて、低温への耐性の違いや、餌資源を巡ってオスの方が有意であることなどが指摘されていますが(Carbon & Owen 1995)、はっきりした原因は分かっていません。今回もカモの性比調査は3年間継続します。前回と比べて性比が変わっているかは同一地域でのオス率を比較することで明らかにしたいと思いますので、みなさまのご協力をお願いいたします。


図4.オス率と緯度経度の関係。上がコガモ、下がホシハジロ。各群の雌雄の比率(二項分布を使用)を目的変数、緯度経度を説明変数として一般化線形モデルで説明変数の効果を調べたところ、これらの種で統計的に有意な傾向があった。

参考文献

Carbon C, Owen M, (1995) Differential migration of the sexes of Pochard Aythya ferina: Results from a European survey. Waterfowl 46:99–108

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