バードリサーチニュース

2050年,2100年.鳥たちのさえずりはどれくらい早くなる?

バードリサーチニュース 2023年1月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ)・太田佳似(日本気象予報士会 関西支部)

 バードリサーチの季節前線ウォッチでは,一昨年から「ウグイスのさえずり予報」を実施しています。太田・植田(2020)でウグイスの初鳴き時期と積算気温に強い関係があることがわかったので,その年の気温状況をもとに,初鳴きを予報しているのです。
 バードリサーチニュース 2022年10月: 1で紹介しましたが,「農研機構 メッシュ農業気象データシステム」では,温暖化シナリオに基づく全国各地の将来の気温予測を公開しています。これを使うことで,その年だけでなく,遠い未来のウグイスのさえずりも予測できそうです。そこで,ウグイスおよび植田・堀田(2022)で5月の気温とさえずり時期の関係が示されたキビタキについて,2050年と2100年のさえずり時期を予測してみました。その結果,両種のさえずり時期を予測することができ,ウグイスとキビタキを比べるとウグイスの方がさえずり時期がかなり早くなるようだということが見えてきました。

メッシュ農業気象で将来のさえずりを予測

 「農研機構 メッシュ農業気象データシステム」https://amu.rd.naro.go.jp/は,1980年以降の3次メッシュ(1kmメッシュ)の気温,降水量,積雪量などの気象情報を公開しているシステムです。過去情報だけでなく,26日先までの予報値も公開していて,温暖化シナリオに基づく2100年までの予測も公開しています。この情報は申請して利用ライセンスを得ることで,誰でも使うことができます。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による温暖化予測にはいくつかのシナリオがありますが,ここには最も気温上昇の低いシナリオ(RCP2.6:2℃上昇シナリオ)と高いシナリオ(RCP8.5:4℃上昇シナリオ)に基づく予測が公開されていて,その情報をもとにウグイスとキビタキのさえずり時期の現在からの変化を予測してみました。ウグイスについては,積算気温を使っているので,「うるう年」と普通の年では積算値が違ってきます。そこで,うるう年を除いた2050年前後の5年間(2047年,2049年2050年,2051年,2053年)と2100年までの5年間(2095年,2097年2098年,2099年2100年)の2℃,4℃上昇シナリオの予測値を基に,さえずり時期を推測しました。

 

ウグイスとキビタキの未来予想

 2℃上昇シナリオをウグイスにあてはめてみると,2050年には,全国平均で現在よりも12日程度早くさえずるようになることが予測されました。4℃上昇シナリオでは,18日,2100年には27日も早くなると予測されました(図1)。どれくらい早くなるものなのかというイメージがあったわけではありませんが,1か月近くも早くなるのは,予想外ですよね。

図1 4℃上昇シナリオに基づくウグイスのさえずり時期の変化。ウグイスの2℃上昇シナリオに基づく予測およびキビタキの2℃上昇および4℃上昇シナリオに基づく予測はこちらから。https://www.bird-research.jp/1/kisetsu/miraiyoso.html

図2 ウグイスとキビタキのさえずり時期が現在から早まる日数の比較平均値と標準偏差を示した。

 これはキビタキと比べると際立ちます。キビタキは2℃上昇シナリオでは,2050年でも2100年でも全国平均で1.3日ほどさえずり時期が早まるだけでした。4℃上昇シナリオでは,2050年には3.4日,2100年には6.3日早くなると予測されましたが,やはりウグイスと比べるとわずかでした(図2)。
 これは何を意味するのでしょうか? ヨーロッパのマダラヒタキの研究では,夏鳥であるマダラヒタキは温暖化にうまく追随できず,食物の虫の発生する時期と,繁殖時期がずれてしまい,個体数が減ってしまう可能性が示されています(Both et al. 2006)。夏鳥のキビタキがこれだけしかさえずり時期が早まらないという結果は,同様にうまくキビタキが温暖化に追随できないことを示しているのかもしれません。今回は2種だけの比較ですが,多くの種で同様の推測をすることができたら,留鳥と夏鳥の違いなどをよりはっきりさせることがでると考えています。

 ただし,今回,示した予測は非常に確実性の低いものです。今以上に暖かくなったときに,今と同じように,ウグイスやキビタキが気温に対する反応をするかはわかりませんし(温度が高くなると,より強く反応するかもしれませんし,逆に鈍い反応になるかもしれません),現在,ウグイスが冬には生息していない,高標高域や北の地域で越冬するようになれば,また反応は変わるでしょう。でもこうした予測が頭に入っていれば,今後,実際のデータが取れたときに,予測と比べることで,いろいろ検討できる点で有用と思います。今後も季節前線ウォッチなどで情報を集めつつ,また,昨年の10月号のヤマガラの記事で紹介したように,繁殖成績などのほかのデータも加えつつ,気候変動が鳥たちに与える影響について明らかにしていきたいと思います。