2017年9月21日,オオタカが種の保存法の「国内希少野生動植物種」から解除されました。これまでの保護活動の成果として喜ばしいことですが,オオタカが開発圧の高い平地から低山にかけての樹林に生息し,そうした場所の保全活動のシンボルとなっていたため,解除に伴なう生息地の開発などを懸念する声がありました。そこで,バードリサーチは環境省の委託を受けて,解除後のオオタカの状況をモニタリングしました。それが2021年度で終了し,「解除」以前の情報と合わせてオオタカの状況を取りまとめました。その結果,解除後のオオタカの状況悪化は検出されませんでしたが,2000年代に入ってから,オオタカは減少傾向にあり,繁殖成績も悪化傾向にある可能性が見えてきました。
植田睦之・遠藤孝一・高橋誠・内田博・平井克亥・今森達也・天野弘朗 (2022) オオタカの繁殖状況と国内希少野生動植物種からの解除の影響.Bird Research 18: A99-A107.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A99
この調査では,北海道十勝から愛知県尾張にかけての6地域でのオオタカのつがい数のモニタリングと,全国のオオタカの観察者からの繁殖成績の情報の収集を行ないました。つがい数は,最近底打ち傾向にはあるものの,2000年代に入ってからは減少傾向にあり,平均減少率は2.8%/年でした。また,2016年以降,情報の多い関東・中部地方では繁殖に失敗するつがいが増加傾向にあり,継続的に繁殖状況が得られている全国の47巣でみても,巣立ちヒナ数は減少傾向にありました。ただし,希少種から解除された2017年以降につがい数がより減少するようになったり,繁殖成績がより低下傾向にあるといった変化は検出されませんでした。
今回は,希少種解除の影響は検出されませんでしたが,「だから大丈夫」と言ってよいかというと,それはわかりません。開発事業は「解除」以前に計画されたものが現在実施されていて,「解除後」に計画されたものがこれから実施され,その影響がこれからでてくるかもしれないからです。また,オオタカは比較的長寿の鳥です。繁殖成績の低下が,現在の成鳥が生きているあいだは個体数の変化に反映されず,タイムラグをもって影響が出て来るかもしれません。日本オオタカネットワークなど他団体と協力しながら今後も情報収集を継続し,影響が見えてきたら,環境省等と検討するような体制を維持していきたいと思います。