バードリサーチニュース

ヒヨドリは減っている? ~地域・標高により違うヒヨドリの増減~

バードリサーチニュース 2022年11月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之・平野敏明

巣材を運ぶヒヨドリ(三木敏史)

 身近な鳥をモニタリングする「ベランダバードウォッチ」はバードリサーチ設立当初から行なわれている調査で,今年で18年目となりました。先日,その調査結果をまとめてホームページに公開しましたが(平野 2022),スズメ,ツバメ,ヒヨドリが減少傾向にあることがわかりました。
 スズメやツバメは,さまざまな調査で減少が指摘されている鳥ですが,ヒヨドリの減少は,ちょっと意外に思いませんか? ぼくが毎年調査している,秩父の森でも,佐渡の森でもヒヨドリは増加傾向にあり,増えている鳥ではないかと思っていました。そこで,全国鳥類繁殖分布調査の結果を集計して,全国的な動向を見てみました。その結果,ヒヨドリの増減には地域・標高差があることが見えてきました。

ベランダバードウォッチでみえる身近な鳥の変化

 最初に簡単にベランダバードウォッチで得られたヒヨドリの減少について紹介します。この調査は,家の周辺の鳥の変化を調べる調査で,繁殖期と越冬期に家から15分間の個体数調査をしています。調査が安定してできるようになった2008年からの15年間のうち,すくなくとも8年間調査が行なわれている14か所の調査地の結果を集計したところ,ムクドリとハシブトガラス,ハシボソガラスは増減傾向がなかったのに対して,スズメ,ツバメ,ヒヨドリが減少傾向にあることがわかりました(図1)。バードウォッチングに出かけた時は観察した鳥を記録しますが,近所ではわざわざ記録しないので,家のまわりは意外と定量的な情報がありません。ベランダバードウォッチではそんな情報をできるだけ多く蓄積したいと考えています。ぜひご参加ください。

https://www.bird-research.jp/1_katsudo/veranda/index.html

図1 身近な鳥6種の繁殖期の個体数の変化。2008年を1とした相対的な変化で示した。実線がTRIMという個体群解析用のソフトによる個体数指標の推定値。点線がその標準偏差を示す。

 

ヒヨドリの全国の分布状況

 ヒヨドリが家の周辺で減少していることがわかりましたが,ヒヨドリは日本全国に分布する,もっとも分布の広い鳥の1つです。様々な環境に分布していて,高標高の場所を除けばほぼどこにでも分布しています。では,ほかの環境や地域によって,増減に違いはあるのでしょうか?
 まず,地域についてみてみます。全国の鳥類観察者の参加で実施した全国鳥類繁殖分布調査では,以前は,北海道の道北や道東,大雪山など標高の高い場所には分布していませんでしたが,2010年代の調査ではそうした場所でも見られるようになっていました(植田・植村 2021)。そうした分布変化からもわかるように,ヒヨドリはもともと南方系の鳥のようです。全国繁殖分布調査のコースあたりの個体数で地域別に集計してみると,生息密度は南で多いのがわかります(図2)。しかし1990年代からの変化をみると,北海道でこそ有意な増加傾向が見られましたが,関東地方で減少,中部地方で増加,それ以外は変化なしと,北で分布を拡大しているなどといった明確な傾向はありませんでした。

図2 ヒヨドリの地域別の生息密度と,1990年代と2010年代の密度の変化。全国鳥類繁殖分布調査の結果に基づく。

 

標高で違う分布変化

 次に,垂直分布についてもみてみました。関東地方以西では,標高の高い場所で見られる種が東北地方以北では低地でも見られるといった垂直分布の地域差があるので,ここでは,全国繁殖分布調査の関東地方以西のデータを標高クラス別に集計してみました。
 すると,標高の低い100m未満の低地のヒヨドリは有意に減少していることがわかり,それに対して比較的標高の高い500-1000mの標高帯では有意な増加傾向が見られました(図3)。そして,その中間の100-500mの標高帯では有意な変化はありませんでした。なお,1000m以上の高標高の場所は,ヒヨドリの記録率が50%と低く(ほかの標高帯は96%以上),現時点ではヒヨドリの主要な生息地になっていない標高帯で,1990年代から2010年代にかけて,記録されたコース数が38コースから44コースへ増加していました。将来はこの標高帯でも増加していくのかもしれません。

図3 標高別の1990年代と2010年代でのヒヨドリの増減。全国鳥類繁殖分布調査の結果に基づく。

 

低地の減少の原因は

 これまでの結果から,低標高の場所については,ヒヨドリが減少しているのは確かそうです。この標高区分に入る,ベランダバードウォッチの結果でも減少が示されており,環境省のモニタリングサイト1000の里地調査でも2006年から2017年にかけて年率2.1%で減少していること(環境省自然環境局生物多様性センター 2019)が示されているからです。なぜ減少しているでしょうか? 低地の雑木林や公園の樹木は,かなり生長して,うっそうとしてきています。こうした変化でキビタキなどは分布を拡げていますが,ヒヨドリにとっては負の要素だったりするのでしょうか? また市街地に残り,ヒヨドリの生息地になっている果樹園や植木畑が地権者の相続のタイミングで住宅地などにかわったりしていますが,そうした生息地の減少が効いているのでしょうか? それとも気候変動ほか何らかの要因で,分布標高が高い方向へのシフトがおきているのでしょうか? ヒヨドリの行動観察やより詳細な分布などを記録などの情報を蓄積し,今後,考えていきたいと思います。 なにか原因に想像がつく方がいたら,教えてください。

で,ヒヨドリの総個体数は減っているの?

 こうした低地での減少の反面,北海道や,標高の高い場所ではヒヨドリの分布拡大や増加がみられました。では,トータルでは,ヒヨドリは減っているのでしょうか? 増えているのでしょうか? ヒヨドリの生息密度を標高別にみると,100-500mが最も高く,100m未満と500-1000mがそれに次ぎました(図4)。そして国土面積では標高100m未満が26.6%,標高100-500mが45.9%,500m以上の土地が27.5%だそうです。一番ヒヨドリの密度が高く,面積も広い標高帯でヒヨドリの数に変化がなく,それに次ぐ場所で片や増加,片や減少ということは,ヒヨドリ全体としては,大きな変化はないと考えるのが現時点では妥当なように思います。全国を満遍なく調査できている全国鳥類繁殖分布調査の現地調査で記録された総個体数でも1990年代は33,900羽,2010年代は33,151羽と大きな違いはありませんでした。
 しかし,高標高域や北海道での増加が気候変動の影響だとすると,今後,気候変動がすすむとともに,大きな変化が起きるのかもしれません。ヒヨドリは個体数も多く,種子散布者としても大きな影響力を持っていて(西野・北村 2022),生態系全体にも大きな影響を与える鳥と思われます。次の全国鳥類繁殖分布調査は,まだまだ先なので,ベランダバードウォッチ,モニタリングサイト1000,フィールドノートなどいろいろな調査の結果を組み合わせつつ,今後のヒヨドリの変化を定期的に集計しつつモニタリングしていきたいと思います。

図4 標高別の2010年代のヒヨドリの生息密度


平野敏明 (2022) ベランダバードウォッチ 2022年夏の調査報告.バードリサーチ・日本野鳥の会栃木県支部.https://www.bird-research.jp/1_katsudo/veranda/2022b.pdf
環境省自然環境局生物多様性センター (2019) モニタリングサイト1000里地調査 2005-2017年度とりまとめ報告書.https://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/reports/pdf/third_term_satoyama.pdf
西野貴晴・北村俊平 (2022) 中部日本のスギ林に生育するキイチゴ属3種の量的に有効な種子散布者.Bird Research 18: A1-A19.
植田睦之・植村慎吾 (2021) 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年.鳥類繁殖 分布調査会,府中市.https://www.bird-atlas.jp/news/bbs2016-21.pdf