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研究誌新着論文:カラス2種の生息環境,利用空間等の違い

バードリサーチニュース 2021年6月: 4 【研究誌】
著者:植田睦之

ハシブトガラス(左)とハシボソガラス(右)。ハシブトガラスは電柱電線,樹木など高いところにいることが多い。高いところから食物を探し,舞い降りて採食する習性が関係しているのかもしれない(写真:三木敏史)。


「都会のカラスといえばハシブトガラス」これ,東京の常識です。しかし最近は東京の都心部にハシボソガラスが進出し始めていて,常識は変わろうとしています。
 ハシブトガラスとハシボソガラスについては,ハシボソガラスが農地などの開けた場所にいて,ハシブトガラスが山や都市などにいるとも言われています。しかし,これも場所によって違うようです。
 このように時代や場所によりかわるハシブトガラスとハシボソガラスの違いを理解するためにはたくさんの場所で,長期にわたる調査結果が必要です。そうした考えのもと,廣部さんなど北海道教育大学の三上研究室のグループが調べた函館での結果がBird Research誌に掲載されました。


廣部博之・藤岡健人・三上 修 (2021) カラス2種の生息環境,利用空間の高さ,および行動個体数の違い.Bird Research 17: A21-A29.

論文の閲覧:http://doi.org/10.11211/birdresearch.17.A21

 

 函館市の都市から農村にかけてのハシブトガラスとハシボソガラスの生息環境,利用している空間の高さ,一緒に行動している個体数について調査をしたところ,函館の都市部での2種の割合は,大都市の札幌(ハシブトガラスが多い)と地方都市の帯広(ハシボソガラスが多い)の中間的だということがわかりました。巣を数えるか個体数を数えるかといった調査方法の違いなどが原因の可能性はあるものの,都市の規模や周辺環境が影響している可能性が考えられました。
 また,ハシブトガラスは発見時に複数でいることが多く,高い空間を利用していました。これも,社会性や採食方法などの行動が影響していることが考えられます。

 ここ数年はコロナで街の様子は変わりましたし,今後は少子高齢化で街の様子も変化していくでしょう。研究室の長期的なテーマとして情報が蓄積していくと,こうした街の変化とカラス類の変化についていろいろなことが見えてくるかもしれませんね。

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