オオムシクイは日本では北海道知床半島などで局所的に繁殖していると言われていますが,ほかにも繁殖地があるのかどうかなど,その現状はよくわかっていません。オオムシクイの渡りの時期が遅く,繁殖期にさえずりが聞かれたとしても,それが渡りの通過個体なのかそれとも繁殖個体なのかの判別が困難なことも現状を掴みにくくしています。オオムシクイの渡りの時期がはっきりすれば,その問題は軽減されます。そこでこれまでの観察記録をもとにオオムシクイの渡りの時期をまとめたのがこの論文です。
高山裕子 (2020) 北海道旭川の春の渡り期におけるオオムシクイの通過時期. Bird Research 16: S7-S9.
高山さんは2017年から北海道旭川にある近所の公園で観察された鳥の記録を年間約300日にわたってとりつづけています。ここはオオムシクイの渡りの中継地となっているので,その記録の中からオオムシクイの記録を抜き出してまとめました。すると年により違いはありますが,オオムシクイの記録は5月下旬から6月上旬が多く,6月中旬まで見られることがわかりました。バードリサーチの野鳥観察データベース「フィールドノート」に登録された北海道の記録も同様で,オオムシクイの渡りは6月中旬までと考えられました。したがって,6月下旬以降に,繁殖の可能性のある北海道の山地部でオオムシクイが見られた場合は,その場所での繁殖地の可能性が考えられそうです。
高山さんのフィールドは寒い旭川なので(-30度の日も記録をとっているとのこと),気候変動の影響なども見えてきそうな調査立地で,今後のデータの蓄積と成果に期待したいです。皆さんの中にも家の周りの観察記録をつけている方がいらっしゃるのではないかと思います。そうした記録からは渡来時期の変化や経年的な増減などいろいろなことがわかります。ぜひまとめてみることを検討してみてください。