5年計画で進めていた全国鳥類繁殖分布調査も今年で最終年を迎えました。「コロナ」でどうなるかと心配していましたが,離島の一部を除き,コースの担当者も決まり,順調に調査は進んでいます。ご協力いただいた皆様,ありがとうございました。
さて,この調査の結果から,これまでに,森林性の鳥や夏鳥の分布拡大,小型の魚食性の鳥や高山や藪に住む鳥の分布の縮小や,身近な場所の鳥の減少がわかってきて,これまでもニュースレターや年次報告で紹介してきました(バードリサーチ 2019)。先日はバードリサーチの「フライデー・ナイトWebセミナー」でもお話ししましたのでご覧ください(バードリサーチYouTubeチャンネル)。そして,今回ご紹介するのは,調査が進み,調査地点数が増えたことで,新たに見えてきたアマツバメ類・ツバメ類といった空を採食の場とする鳥たちの減少です。
ほとんどのアマツバメ類・ツバメ類が減少
全国鳥類繁殖分布調査は全国に万遍なく配置された約2,300のコースを現地調査しています。これまでに95%のコースの調査が終了しており,そのうち,調査経路をほとんど変更なく調査できたコースについて,1990年代と今回のアマツバメ・ツバメ類が記録されたコース数を比較しました。
50コース以上で記録のあった種を対象にその分布の増減率を見てみると,アマツバメ類・ツバメ類では,ハリオアマツバメが減少率47.5%と減少率のランクの6位に入っていました(表1)。そして,アマツバメ,コシアカツバメ,イワツバメも30位以内に入っていました。ショウドウツバメ,ヒメアマツバメは記録コースが50コースに満たないため,このランキングには入っていませんが,それぞれ45%を超える減少率で,これは7位,8位に該当する減少率でした。
ツバメとリュウキュウツバメは分布には大きな増減はありませんでしたが,ツバメについては個体数が有意に減少していることがわかっています(植田 2020)。南西諸島に住むリュウキュウツバメを例外とすれば,すべての種が減少しているといえます。
地域的に減少の状況に違いがあるかどうかを図示してみると,イワツバメは東で,コシアカツバメは西で減少しているようにみえますが(図1a),それは,減少に地域差があるわけではなく,種による生息分布の違いを反映しているようです。図1b-cの棒グラフの高さの違いでわかるように,アマツバメ類やイワツバメ類は東に偏って生息していて,コシアカツバメは西に偏って生息しているのです(図1b-c)。そして棒にしめる赤の割合で示される減少の割合については顕著な地域差はなく,全国的に減少しているようです(図1b-c)。
食物の飛翔性昆虫が減少?
では,なぜ,アマツバメ・ツバメ類は分布が縮小したり減少したりしているのでしょうか? これらの鳥の共通点としては,多くが夏鳥であることがあげられます。留鳥のリュウキュウツバメだけ減っていなさそうなこともあり,越冬地や中継地の環境の変化が影響しているというのも魅力的な仮説に思えます。しかし,アマツバメ・ツバメ類以外の多くの夏鳥が分布拡大傾向にあることとは整合性がありません。
森の木が育って森林性の鳥が増えていることが示唆されていますので(バードリサーチ 2019),実際は減っていないけれども,木が邪魔をして空を飛ぶこれらの鳥たちが見つけにくいだけ,という可能性もあるかもしれません。ただ,アマツバメやハリオアマツバメ,イワツバメについてはありえますが,より開けた場所で見られるツバメやコシアカツバメ,ヒメアマツバメについては,その影響は小さそうです。
そうすると,空を採食の場としている共通点が一番説得力がありそうです。彼らが食物としている飛翔性の昆虫が減っているなどといったことがおきているのかもしれません。
もしそうだとすると,飛翔性の昆虫を食べる夜行性の生物も減っているハズです。たとえばコウモリ,そして鳥ではヨタカです。しかし,ヨタカは分布拡大種の上位に入っていて(バードリサーチ 2019),この仮説に反しています。ただし,繁殖分布調査は昼行性の鳥を把握するために調査設計されているため,夜行性のヨタカの評価は間違っている可能性があります。夜行性のヨタカが繁殖分布調査の現地調査で記録されるかどうかは,調査開始時にヨタカが鳴いているかどうか,つまり,日の出前から調査を開始したかどうかで決まってしまうからです。今回,皆さんが頑張って早くから調査してくれたために「増えたように見えている」可能性があるのです。1990年代の電子データには調査時刻が入っていないので,それを検証することは今回できませんでしたが,元データにあたって,前回の調査時刻を調べ,本当にヨタカが増えているのか確認する必要がありそうです。
また,コウモリについては,その多くがレッドリストに掲載されており,各地で減少を示す情報もあります(環境省 2019),しかし,全国的な傾向についてはよくわからないので,コウモリの研究者と情報交換していき,検討していきたいと思います。