バードリサーチニュース

研究誌新着論文:シカの下層植生摂食の影響が宿主を通して托卵鳥へ

バードリサーチニュース2019年12月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

毛虫を食べるホトトギス(武蔵一雄)

 最近の登山道はすっかり歩きやすくなりました。以前は朝露のついたスズタケが登山道に張り出し,調査地につくまでにズボンや靴はびっしょり。不快な思いをしましたが,今はそんなことは皆無。この上なく快適に歩くことができます(ただし,別のかたちで不快なヒルが増えたところもあります)。これはシカがスズタケを食べ,スッキリとした林床になったからです。
 でもそれは良いことばかりではありません。ウグイスやコマドリ,コルリなど藪に住む鳥たちが減ってしまったのです(植田ほか 2014)。そして「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが,その影響が次の段階に進んでいることがわかってきました。

植田睦之・葉山政治・串田卓弥 (2019) シカの下層植生摂食の影響が宿主を通して托卵鳥へ.Bird Research 15: S11-S15.

 

 この研究は環境省のモニタリングサイト1000調査の2010年から2019年の調査結果を解析したものです。調査地をシカの影響の大きい場所と軽微な場所に分け,そこに生息する藪を利用するウグイスやムシクイ類とそれに托卵するツツドリやホトトギスの個体数変化を調べました。するとシカの影響が軽微な調査地ではこれらの鳥の数には有意な変化はありませんでしたが,シカの影響が顕著な調査地ではウグイスやムシクイ類もカッコウ類もすべて減少していたのです。つまり,シカの影響で藪の鳥が減り,それがそれらの鳥に托卵するカッコウ類をも減らしたのではないかと考えられます。

 では,カッコウ類が減ると次はどうなるのでしょうか? カッコウ類が専門的に食べている毛虫が増えるかもしれません。そして毛虫がふえると毛虫に刺された人が皮膚科に行くことが増えるかもしれません。「シカが増えると皮膚科が儲かる」将来そんなことわざができるようなことがないと良いのですが・・・。 

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.15.S11

植田睦之ほか (2014) 全国規模の森林モニタリングが示す5年間の鳥類の変化.Bird Research 10: F3-F11.