今年の春、突如降り出した豪雨時に、ふと事務所のベランダを見ると、積み上げられた段ボールの上で雨宿りしているヒヨドリが目に入りました。ふと、森林性の小鳥の雨宿りについて、なにか論文になったものはないかと思い、探してみたのですが見つかりません。代わりに、台風に直面した際の海鳥の行動について、今年4月に発表された論文をご紹介します。
カツオドリは台風から離れていき、グンカンドリは島で耐える生き残り戦略を持っているようです。マダガスカル島とアフリカ大陸を分かつモザンビーク海峡で行なわれた研究ですが、日本に当てはめて考えてみると想像が膨らみます。台風が接近してきたとき、海鳥は、南半球でも、北半球でも、西側へと回避していそうです。
台風接近時の生き残り戦略が異なるカツオドリとグンカンドリ
WeimerskirchさんとPrudorさんは、モザンビーク海峡に浮かぶエウロパ島という小さな島で繁殖するアカアシカツオドリとオオグンカンドリにデータロガーを背負わせて、研究を行なっていました。この2種は翼の形状や飛び方に違いがあります。アカアシカツオドリは、細く長い翼を持ち、強い風の中で羽ばたき飛翔ができますし、着水して休息したり、水面から飛び立つことができます。一方、オオグンカンドリの翼は長い上に幅が広く、翼を広げたまま風を受けて高速で滑空する飛び方に特化した鳥で、羽ばたき飛翔は苦手です。そのため、小回りが利かず、離着水は不得手です。しかも、羽の撥水性が低いと言われていて、海面に浮くようには進化していないようです。嵐に巻き込まれて海に落ちたら・・・オオグンカンドリは助からないのかもしれません。
2014年2月19日に、台風がエウロパ島を襲ったとき、WeimerskirchさんとPrudorさんは、アカアシカツオドリ35羽とオオグンカンドリ22羽を追跡していました。2種の行動には、明らかな違いがありました。アカアシカツオドリは台風が接近するぎりぎりまで島から海に採食に出かけ、台風が島に到達したとき成鳥は西に向かって低空で飛翔し、台風から遠ざかりました。
オオグンカンドリは台風が近づくとほとんどの個体が繁殖地の島に戻り、島を離れて採食に出かけることを早いうちから断念し、ほとんどの個体が島で台風をやり過ごしました。いざというとき海に下りることができるアカアシカツオドリと、それができないオオグンカンドリでは、台風に遭遇した時の戦略は異なるようです。
オオグンカンドリよりも体が小さいアカアシカツオドリは、島に残った際の死亡リスクが高いようです。データロガーによる追跡によって、アカアシカツオドリの若鳥は成鳥と異なり島で台風が過ぎるのを待つことがわかったのですが、データロガーを装着して追跡していた若鳥31羽のうち2羽が台風を境に、消息を絶ったのです。オオグンカンドリの若鳥14羽が皆無事だったため、台風接近時に島に残った時の死亡リスクの違いも、2種の台風回避戦略の違いを生み出しているのではないか、と著者の二人は書いています。
南半球でも北半球でも海鳥は台風の西側へ回避する
追跡していたオオグンカンドリのうち、1羽の成鳥が島に帰り損ねてしまいました。エウロパ島の西の海上にいるときに台風が接近してきてしまったのです。このオオグンカンドリはその後、台風の西側を速度を上げながら北上し、台風の周りに起きる風に乗りながらすれ違いました(図1)。2015年に著者の二人がニューカレドニアのオオグンカンドリを追跡していた時も、彼らは同じように台風の西側へ回避するルートを取りました。
なぜオオグンカンドリたちは、このような回避ルートを取るのでしょうか?モザンビークもニューカレドニアも南半球にあります。南半球では、台風は北から南に向かって進み、台風の周りに起きる風は時計回りです。そのため、台風の東側では、台風の進路と風の向きが一致し、北から南に向けて強い風が生じ、西側では相殺されて風が弱まり、その流れも台風の進路と逆になります(図2)。もし、オオグンカンドリが台風の東側をすれ違おうとするなら、より強い逆風の中を進まなければなりません。西側に避けるのは、理にかなっているのです。
北半球の日本では、どうなるでしょうか?ご紹介した論文の内容をもとに考えてみました。北半球では台風は南からやって来て北へと向かって行きます。そして、台風の周りに起きる風は南半球とは逆に反時計回りに吹いています。そのため、日本を通過する台風も、東側に強い風が、西側に台風の進路と逆方向のやや弱い風をまとっているのです(図2)。そのため、日本近海に生息する海鳥が台風に遭遇した場合も、台風の西側に避ける方が賢明だ、ということになります。
日本にも毎年たくさんの台風がやってきます。そして、まれに、内陸部で海鳥が保護されることがあります。海鳥たちが常に台風の西側へ回避行動をとるのだとすると、台風が日本の東側を通過するときに、より多くの海鳥が日本列島の上を通過し、力尽きて保護されているのでしょうか?それとも、日本の西よりを台風が通過した時、その東側に発生する強い風に海鳥が直面した時に回避できずに地上に下りて保護されるのでしょうか。
海鳥が保護された日付の記録を調べ、これまでに発生した台風のルートと比較することができたら、ひょっとしたら傾向が見えるかもしれません。
紹介した論文
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Henri Weimerskirch & Aurélien Prudor (2019)
Cyclone avoidance behaviour by foraging seabirds.
Scientific Reports vol.9: Article number 5400
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