陽が沈み,夕焼けも力をなくし,とっぷりと暮れてきたころ,池からカモたちが飛び立ち始めます。続々と。彼らはいったいどこへ行くのでしょうか?
これまで,カモは夜間に,おそらく,水田で採食しているだろうと考えられてきました。加賀市の片野鴨池で行なわれたマガモを電波発信機で追跡した調査では,マガモが水田で採食していて,水を張った水田が好まれることが明らかにされています(山本ほか 2002)。しかし,夜間に電波発信機を捕捉することの難しさから,池から数km圏内で採食しているカモは追跡できたものの,それより離れたところに採食に行く個体の追跡は困難でした。そこで,最近軽量化の進んでいるGPS発信機をもちいて,マガモとカルガモを追跡をしたのがこの論文です。
嶋田哲郎・植田睦之・高橋佑亮・内田 聖・時田賢一・杉野目 斉・三上かつら・矢澤正人 (2019) GPS-TXによる越冬期のマガモ,カルガモの行動追跡.Bird Research 15: A15-A22.
2017/18年と2018/19年の越冬期に伊豆沼・内沼周辺においてマガモ16個体,カルガモ2個体をGPSで追跡したところ,マガモは,夜間,伊豆沼にとどまる個体もいましたが,沼を飛び立った個体は湛水田やハス田,ため池,河川など,水のある環境を利用していることがわかりました。この結果は鴨池での結果と一致していました。カルガモもマガモと同様に湛水田やハス田など水のある環境を利用していましたが,狭い用水路も利用する点が,マガモと少し違うところでした。
マガモもカルガモもごく普通に見られる鳥です。しかし,環境省のガンカモ類の生息調査(ガンカモ一斉調査)の結果から,実は,その越冬数はかなり減少しているのでは,と考えられています(Kasahara & Koyama 2010)。農地整備による乾田化が進み,今回の調査でマガモやカルガモが高頻度で利用していることのわかった水のたまった水田は減少しています。こうした環境の変化が,マガモやカルガモの減少につながっているのかもしれませんね。
論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.15.A15