このシリーズでは毎回、研究者自身に、発表した英語論文について解説してもらいます。
今回はバードリサーチの嘱託研究員の西田有佑さんに解説してもらいます。この論文は、西田さんが大阪市立大学の博士後期課程在学時に行ったモズの歌声と子育て能力についての研究で、2018年に北欧の生態学系の学会(Nordic Society Oikos)が発行するJournal of avian biologyに掲載されました。本来、メスにとって結婚相手であるオスの子育て能力は子供が育ってみないと分からないものです。しかし、モズでは魅力的なさえずりをするオスほど子育て能力が高いので、メスはつがいになる前からオスの子育て能力を知ることができる、という話です。
【加藤貴大 編】
紹介する論文: Nishida, Y., & Takagi, M. (2018). Song performance is a condition dependent dynamic trait honestly indicating the quality of paternal care in the bull headed shrike. Journal of Avian Biology, 49(10), e01794.
「良い親」仮説:魅力的な歌の持ち主は、子育てが上手?
春は小鳥たちにとって恋の季節です。オスは求愛のためにこぞって歌い出し、メスはその歌を聞いてつがい相手を選ぶことが多くの種で知られています。では、なぜメスは魅力的な歌をもつオスを好むのでしょうか。
多くの小鳥では、両親がエサを運びヒナを育てます。体重が重いヒナほど巣立ち後の生存率が高くなることが鳥類一般で知られているので、頻繁にエサを運んでくれるオスとつがいになれば、メスは多くのヒナを生存率が高い状態で巣立せることが可能になります。したがって、メスは「子育て上手」なオスをつがい相手として好むはずです。しかし、オスの子育ての上手さを知ることができるのは、子育てがはじまってからです。まちがって、子育ての下手なオスとつがいになってしまっては大変です。そこでHoelzer(1989)は「メスが魅力的な歌をもつオスを好むのは、そのようなオスほど子育てが上手だからだ」という良い親仮説を提唱しました。
良い親仮説の実証には、1)メスはオスの歌に基づいてつがい相手を選ぶ、2)メスにとって魅力的な歌をもつオスほどヒナへたくさん給餌する、3)そのようなオスとつがったメスほど多くの健康なヒナを巣立たせられること、をすべて示す必要があります。
これまで10種以上の鳥において良い親仮説は研究されたものの、スゲヨシキリ(Buchanan & Catchpole, 1997, 2000)の1種しか実証に成功しておらず、小鳥の歌で良い親仮説が成り立つかはまだよくわかっていません。
そこで私は、モズを用いて良い親仮説の実証に挑みました。モズは日本全域の田畑などでよく見られる小鳥です(図1)。繁殖期になると、モズのオスは求愛のために盛んに歌うことが知られています。また、先行研究によれば、天候が悪く親がエサ捕りを満足にできない状況では、ヒナの餓死率が高くなることがわかっており(Takagi, 2001)、親の給餌能力はヒナの成長や生存率に影響する要素だと考えられます。よって、モズは良い親仮説を検証できる材料です。
早口で歌うモズのオスほど、ヒナにたくさんエサを運ぶ
調査は大阪府南部に位置する河内長野市・富田林市の農地で、2012-17年の6年間実施しました。モズの繁殖期(2-5月)にオスのなわばりを定期的に巡回し、58個体のオスの歌を集音マイクで録音し、歌の特徴(例:音の高さ、歌っていた時間の長さ、歌のレパートリー数の多さなど)を抽出しました。同時に繁殖調査も行い、オスがメスとつがいになった時期を特定しました。多くの鳥では、メスに好まれるオスほど早くつがい形成できるため、オスのつがい形成時期の早さをメスの好みの指標として使いました。子育てが始まった巣については巣前にビデオカメラを設置して、父親からヒナへの給餌頻度を定量しました。巣立ち直前のヒナを捕獲して、巣立ちヒナ数やヒナ体重を計測しました。これで、良い親仮説の検証の準備が整いました。
まず、1)メスはオスの歌に基づいてつがい相手を選ぶかを検証するため、オスのつがい形成時期と歌の特徴の関係を調べました。調査の結果、ほとんどの歌の特徴がつがい形成時期とは関係なかったものの、歌唱速度の速かったオスはより早くつがい形成できたことが分かりました(図2)。歌唱速度とはオスが1秒間に発した音数を表す特徴で、この値が大きいほどオスは「早口」で歌っていたことを意味します(図3、早口の音声と遅口の音声)。よって、モズのメスは早口で歌うオスを好む、つまり歌唱速度に基づいてつがい相手を選ぶことが示唆されました。ちなみに、メスの好みと関係しそうな、オスのなわばりの大きさやオスの形態の特徴(例:尾の長さなど)はオスのつがい形成時期と関係がありませんでした。
つぎに、2)魅力的な歌をもつ(=歌唱速度が速い)オスはヒナへたくさん給餌するかを調べました。すると予想通り、歌唱速度の速いオスほどヒナへの給餌頻度が多いことが示されました(図4)。さらに解析を進めてみると、歌唱速度が速いオスほど、畑が多く含まれるなわばりをもつことがわかりました。モズにとって畑はエサ場として好適な環境であることが知られています(Matsui & Takagi, 2017)。つまり、魅力的な歌をもつモズのオスは良いエサ場をもっていたため、ヒナへたくさん給餌できたのだと考えられます。
最後に、3)魅力的な歌をもつオスとつがったメスが多くの生存率が高いヒナを巣立たせられたかを調べました。ほとんどの巣では4-5羽のヒナが巣立っており、歌唱速度と巣立ちヒナ数の間には関係がありませんでした。しかし、歌唱速度の速いオスほど、より体重が重いヒナを巣立せていました(図5)。鳥類一般では体重が重いヒナほど、その後の生存率が高いことが知られているので、魅力的なさえずりをもつモズのオスとつがいになったメスは生存率が高いヒナを育てられることが明らかになりました。
以上から、モズのオスの歌は子育て能力を示す指標として機能しており、メスはその歌に基づいて結婚相手を選ぶことで、子育ての上手いオスとつがいになれることが明らかになりました。これは良い親仮説を実証した数少ない研究といえるでしょう。
バードウォッチング中に早口で歌うモズのオスを見かけたときは、子育てがんばれ!とエールを送ってあげてください。
引用論文
Buchanan, K. L., & Catchpole, C. K. (1997). Female choice in the sedge warbler Acrocephalus schoenobaenus multiple cues from song and territory quality. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 264(1381), 521-526.
Buchanan, K. L., & Catchpole, C. K. (2000). Song as an indicator of male parental effort in the sedge warbler. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 267(1441), 321-326.
Hoelzer, G. A. (1989). The good parent process of sexual selection. Animal Behaviour, 38(6), 1067-1078.
Matsui, S., & Takagi, M. (2017). Habitat selection by the Bull-headed Shrike Lanius bucephalus on the Daito Islands at the southwestern limit of its breeding range. Ornithological Science, 16(1), 79-86.
Takagi, M. (2001). Some effects of inclement weather conditions on the survival and condition of bull-headed shrike nestlings. Ecological Research, 16(1), 55-63.
著者紹介
大阪市立大学大学院理学研究科・NPO法人バードリサーチ嘱託研究員
専門は行動生態学・進化生態学。モズのさえずりと早贄の機能について研究中。モズと同じく頭が大きい。