2017年から実施している東京都鳥類繁殖分布調査の島嶼部調査。2年目の今年も天候に恵まれ、8島で調査を実施しました。この2年間で現地調査やアンケート調査に参加して頂いた方は総勢60名になりました。中には北硫黄島や南硫黄島をめぐるクルーズに参加された方からの情報もありました。ご協力頂き、ありがとうございました。
この結果、329の3次メッシュ(1km×1kmの区画)のデータが集まり、観察種は92種となりました。ラインセンサスでカウントした鳥の総個体数は19,579羽、ラインセンサスの総調査時間は234時間10分となりました。
これらの調査結果を元に、現在、分析を進めていて、少しづつ東京の島嶼の鳥類相が明らかになってきました。今回は1970年代に行われた伊豆諸島10島で鳥類の繁殖分布調査(樋口1973)のデータと比較して、伊豆諸島10島(図1)で繁殖している可能性のあるスズメ目について見ていきます。
伊豆諸島に進出した鳥、いなくなった鳥
2017年-2018年(以後2010年代)の調査で、伊豆諸島10島では繁殖している可能性のあるスズメ目を25種、確認しました(表1)。25種のうち、サンコウチョウ、ハシボソガラス、キビタキ、ハクセキレイの4種は1970年代では観察されていませんでした。観察されたサンコウチョウ、キビタキ、ハクセキレイは全国鳥類繁殖分布調査でも分布の拡大が見られているので、こういった島嶼にまで分布を拡大しているのかもしれません。この3種はそれぞれ2,3島で少数観察されているのみなので、定着と呼べるような状況ではないですが、今後、定着、分布拡大するのかどうか気になります。一方、ハシボソガラスは伊豆大島の18メッシュで計40羽程度観察されているので、他の3種と異なりすでに定着していると思われます。地元の方の話では1990年代から観察されるようになったとの事でした。以前は八丈島でもハシボソガラスが観察されていますが、現在は伊豆大島以外で確認できていません。なぜ伊豆大島では定着できたのでしょうか。また、今後、伊豆大島で分布域を拡げるのか。これらの疑問は次回の分布調査の結果で明らかになるかもしれません。
次に1970年代では観察され、2010年代では観察できなかった2種(セッカとイワツバメ)についてです。セッカは戦前、八丈島で10数羽捕獲された記録があり、1970年代の記録にも伊豆大島と八丈島で観察されています。ただし、1970年代でも「大島で調査した4年間毎年、八丈島では1970年から1972年にかけて,どちらも空港付近の草原で少数観察した。巣は見ていない。」と記録されている(樋口1973)ので、1970年代に繁殖していたのかどうかは不明です。次にイワツバメ。今回の調査では観察されませんでしたが、八丈島の観察記録をみると2010年代に入っても観察されていました(こっこめ通信 2011年5月号)。また、1970年代では「神津島金鼻崎,三宅島伊豆一神着間および赤場暁付近,八丈小島江ノ下の各海岸で毎年観察した。それら4カ所とも20~30羽程度の群で見られ,その付近にある断崖で営巣しているようであった。」と記されています。今回の調査では海岸沿いのセンサスはあまり行っていないため、観察できなかったのかもしれません。
分布を拡大した鳥、縮小した鳥
続いて、1970年代と2010年代の調査で共に確認されたスズメ目の分布の変化を見ていきます。1970年代、2010年代ともに確認できた種は21種で、そのうち10島全てで観察できたのは、ヒヨドリ、ウグイス、メジロ、イソヒヨドリ、ホオジロでした。このうち、イソヒヨドリ以外の4種は全国鳥類繁殖分布調査でも優占種の上位に進出しており(参考)、広域分布に成功した種である事が分かります。
次に分布している島の数が3島以上、増えている種についてみていきます。シジュウカラは6島から9島に、ツバメは3島から9島に分布が広がっていました。東京本土部で行われた鳥類繁殖分布調査によって、シジュウカラは70年代から90年代にかけて東京都心部で分布を拡大した事が分かっています。これは都心の緑地が増えた事が要因に挙げられています。一方、伊豆諸島で1970年代に観察されず、2010年代に観察されるようになった新島、御蔵島、八丈小島は1970年代にもシジュウカラが生息できそうな環境はあったと考えられるので、なぜ広がっているのかは不思議です。
最後に分布している島の数が3島以上、減った種についてみていきます。モズが10島から4島、イイジマムシクイが10島から7島、トラツグミが6島から2島、カワラヒワが10島から7島に減っていました。東京本土部の調査でもモズは70年代から90年代に減少がみられていますが、カワラヒワは分布が広がっているので、本土部と傾向が異なっていました。島嶼部のみで繁殖をしているイイジマムシクイは1970年代には観察できた伊豆大島、新島、式根島で観察されなくなっていました。イイジマムシクイは国内でトカラ列島と伊豆大島が主な繁殖地で、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧II類(VU)に指定されているので、伊豆諸島で繁殖している個体群の今後の動向を注視する必要がありそうです。
伊豆諸島の大きさ、距離、標高と種数の関係
以前のニュースレターでも紹介しましたが「小さな島より大きな島ほど生息する動植物の種数が多い」という現象が知られています。今回はスズメ目のデータを使って種数と島の面積の他に、本土からの距離、そして島の標高がそれぞれ相関しているかどうかみてみました。
結果は島の面積が大きいほど、標高が高いほどスズメ目の種数が多い事が分かりました(p<0.05 一般化線形モデル 図2)。島の面積や標高は島の環境の多様性を示していると考えられるので、多様な環境を持つほど種数が多くなるのでしょう。
一方、本州からの距離と種数には有意な相関がみられませんでした(p=0.35 一般化線形モデル 図2)。本州から近い方が、その分多くの鳥がくるチャンスが多いように思えるのに、なぜ、相関ができなかったのでしょうか。今回調査した伊豆諸島の中で最も遠い青ヶ島は本州から約350km離れていますが、このくらいの距離だとそこまで影響が強くないのかもしれません。今回、分析には加えていませんが、本州から1000kmほど離れている父島(面積が23.45km2)や母島(面積が19.88km2)では確認されたスズメ目がそれぞれ5種と6種で、概ね同じ面積の新島(面積が23.17km2)や御蔵島(面積が20.55km2)がそれぞれ13種と16種でした。小笠原諸島くらい本州からの距離が離れていると、偶然渡って、定着できる可能性が低いため、種数が少なくなるのでしょう。
今回はスズメ目に焦点を当ててみました。猛禽類などラインセンサスで見落とす可能性がある分類群は引き続き、情報収集を行います。伊豆諸島に行かれる際は是非、観察記録をご提供ください。