2018年度よりバードリサーチに加わりました、加藤貴大です。立教大学理学部の卒業研究から鳥類研究を始め、総合研究大学院大学で博士号を取得しました。実家が近かったこともあり、秋田県大潟村で7年間フィールドワークをしました。大潟村では巣箱を設置して、そこで繁殖する鳥類の生態について研究していました。巣箱はコムクドリやアリスイ、シジュウカラなどに使われますが、私はずっとスズメの研究を続けてきました。スズメは身近な鳥ですが、実は彼らの生態についてはよく分かっていないことも多いです。今回は、私が今まで行っていた研究である、スズメの異様に低い孵化率について紹介します。
とても低いスズメの卵の孵化率
鳥類における卵の孵化率は、スズメ目ならば約9割と言われています。これに対し、一部のスズメ属鳥類では孵化率が6割前後です。(スズメ、イエスズメ、スペインスズメなど)。私が研究を行っていた大潟村においても、スズメの孵化率は平均して6割前後でした(写真1)。未孵化卵の中身を見てみると、約8割では肉眼で胚発生を確認できず、生卵のような状態でした(非発生卵、写真2)。
非発生卵は未受精卵なのか受精卵なのか、外見から分かりません。ここで、「未孵化卵は未受精卵なのか?」という疑問が生まれます。そこで、非発生卵の受精率を調べました。卵から胚盤(成長して雛になるところ)を採取して、細胞内の核を染色し、顕微鏡下でそれを観察します。受精していれば精子陥入が引き金となって、ある程度細胞分裂するので多数の核を観察できます。結果、ほとんどの非発生卵は受精していることが分かりました(写真3)。つまり、受精はしているけれど、胚発生の早期に死亡していたのです。
受精はしているのに胚発生が進まない原因について、2つの可能性が考えられます。1つは親の抱卵が下手なこと、もう1つは卵自身の発生能力が不足していることです。これらのどちらであるかを確認する実験を行ったところ、親の抱卵の上手さではなく、卵自身の発生能力に原因があることが分かりました。
未孵化卵にはオスが多い
次に、スズメの子供たちの成長段階(卵、胚発生、孵化、巣立ち)と、各段階における子供の性別を調べました。卵の段階では、非発生卵も含めて、オスとメスがほぼ同数いました。しかし、胚発生に成功した子供の性別を調べてみると、オスよりメスの数の方が多くなりました。そして孵化、巣立ちの段階でも、オスよりもメスの数が多いままでした。つまり、非発生卵にはオスが多く、胚発生早期にオス胚の死亡率がメス胚よりも高いということを示しました。このように雌雄の死亡率が違うことを性特異的死亡と言います。スズメでは胚発生段階で性特異的死亡が起こり(オスが死にやすく)、オスよりメスの数が多くなっていました。
子供の性別とそれぞれの性別の数は、自然界ではとても重要で、たくさんの研究がされています。性特異的死亡は子供の性別の数に影響する現象の1つで、スズメ以外の生物でも報告されているのですが、あまり注目されていませんでした。野鳥において卵から巣立ちまで縦断的に子供の性別を調べたのは、おそらくこの研究が初めてです。オスとメスの数について、これまではどの段階のことを議論しているのかが曖昧にされることが多かったのですが、この研究はしっかりとした定義と、性特異的死亡の重要性を訴えています。私はさらに、性特異的死亡が起こる環境条件や生理的要因、そして未孵化卵の生態学的機能についても研究を行いました。これらについては今後、論文発表後に紹介できればと思います。
今後の抱負
これまで私は研究を通じて、野外調査からDNA解析、ホルモン分析、統計処理など、様々な経験をさせてもらいました。これらの経験を活かしつつ、鳥類保護、アウトリーチ活動などにも、微力ながら貢献できればと思います。
参考文献
Takahiro Kato, et al. (2017). Male‐specific mortality biases secondary sex ratio in Eurasian tree sparrows Passer montanus. Ecology and evolution, 7(24), 10675-10682.