バードリサーチニュース

研究誌新着論文:日本におけるコクガンの個体数と分布

バードリサーチニュース2017年12月: 3 【研究誌】
著者:植田睦之

野付湾に集まってアマモを食べるコクガンの群れ(撮影:藤井 薫)


 先週は伊豆沼に調査に行っていました。今年は伊豆沼でもハクガンが簡単に見られるようになったということで,ぼくも12羽の群れを見ることができました。茶色いマガンやヒシクイの群れの中にいる白いハクガン。浮き上がるように見えていいですよね。

 ハクガン以上にガンの中で異質感の漂う鳥がいます。それはコクガンです。水田のイメージの強いガンの中で海に生息しているのが独特です。そして,その海での調査の難しさから,ほかのガンと比べてその生息状況すらよくわかっていません。そのコクガンの状況を調べた論文が今回Bird Research誌に掲載されました。


藤井 薫(2017)日本におけるコクガンの個体数と分布(2014-2017年).Bird Research 13: A69-A77.


 藤井さんが中心となっている道東コクガンネットワークが2014年からの3越冬期,全国の越冬期そして渡り期のコクガンの生息状況を調べた論文です。その結果,少なくとも秋期には8,600羽,冬期は2,500羽,春期は3,100羽のコクガンが日本を利用していることが推定されました。そして秋期と春期には国内の80-90%のコクガンが北海道道東の野付湾と国後島南部に集中していて,この地域のコクガンにとっての重要性が示されました。世界のコクガンの中継地や越冬地でも食物であるアマモがたくさんあるところに多くの個体が集中するということですが,野付湾周辺もアマモが多く,さらに遠浅でコクガンがアマモを採りやすい地形です。そのため,重要な場所になっていると考えられます。また,この地域を渡り期に通過する数と比べて冬期に日本全国で記録できた数は少なく,野付周辺を通過したコクガンがどこで越冬しているのかわかりませんでした。中国などへと渡って越冬している可能性が考えられます。野付でコクガンにGPSを装着して追跡する計画があるそうで,その成果が楽しみです。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.13.A69