バードリサーチニュース

カワウがねぐらを作りそうな場所はどこ?航空写真で予測マップ ~三重県津市から依頼を受けて~

バードリサーチニュース2017年5月: 4 【活動報告】
著者:高木憲太郎

 ぼくがカワウの生息状況の調査や管理に関わるようになって15年。たくさんのねぐらやコロニーを見てきました。そのせいか、川べりや池に面した林を見ると、ああ、カワウが好きそうな場所だな、とか、この林はきっとねぐらにはならないだろうな、という想像ができるようになりました。鳥の繁殖生態などを研究されている方なら、わかりますよね?研究のために巣を探しているうちに、上手くは説明できないけれど、営巣しそうな場所がなんとなくピンとくるようになる、あれです。

航空写真をディスプレイで見ながら、カワウがねぐらを作りそうな場所に印をつけて行きました。

 この能力が役に立つ日が来ました。三重県の津市から依頼を受けて、事務所に居ながら、カワウをねぐらから追い出したときに、どこへいくか白地図に示して指導することになったのです。

 カワウの管理は都道府県単位ぐらいの範囲のカワウの生息状況を視野に入れて、計画的に進める必要があります。しかし、近年、市町単位の判断で都道府県などとの情報共有もなく、ねぐらの除去や駆除が行われることが増えてきており、場当たり的な対策が増えることを懸念していたところでした。
 今回は、カワウをねぐらから追い出す前に、カワウが行きそうな場所を事前に把握しておいて、ねぐらがあちこちに新しくできて管理しづらくなることのないように進めたい、という相談でした。これは良いモデルケースになるのではないかと考えて、対策の進め方も含めてアドバイスすることにしたのです。そしてその後、三重県津市から、対策を実施した結果、概ね上手く行ったというお知らせをいただきましたので、ご報告いたします。

カワウの管理が上手く行くかどうかは、管理をする側の体制次第


 三重県の水産資源課から「津市からねぐら対策で相談が来ているのだけれど、紹介して良いか?」という電話がありました。2016年の8月上旬のことでした。了解した旨を伝えると、すぐに、津市の水産行政担当課から電話があり、概略の説明と、実際の担当が環境保全課になるので、そちらから連絡があると思うのでよろしく、と言われました。
 タテ割り社会の行政において、めずらしく横の連携が取れている印象がありました。カワウの管理が上手く行っているところは、鳥獣行政(環境保全課)と水産行政の連携が取れているところが多いので、期待ができそうだと感じました。

 翌日、津市の環境保全課から電話がありました。対策を考えているのは、津市北部の志登茂川の下流部にあるねぐらだということでした。この場所は、もともと広い養鰻池で、ねぐらの場所は住宅から離れていました。しかし、流行りのメガソーラが建設されて、住宅地に隣接したごく一部の養鰻池だけが残され、そこにカワウのねぐらが移ってきたことで、近隣住民が鳴き声や糞による悪臭などに晒されるようになったようです。津市では37の地域で地域懇談会という市長が地域住民の話を聞く場が開かれており、その場で、住民の困りごととしてカワウのことが話され、市が動くことになったそうです。
 環境保全課の担当者は、カワウの管理についてよく勉強されていて、その上で、「被害を抑えるために、カワウにはこの場所からいなくなってもらうしかない。でも、ねぐらの場所が他に新しくできたり、ねぐらの箇所が増えたりして、周りに迷惑をかけたり、被害が拡大しては良くないと考えているが、どうしたらよいだろうか?」という相談でした。しかも、月末までに対策の方針を市長に報告しなければいけない、というのです。

カワウのねぐらを追い出す方法と準備

住宅地に隣接した樹林にカワウがねぐらを形成し、地域住民が対策を市に求めた。 写真提供:津市


 電話で話を聞きながら、パソコンで地図を開き、位置を確認します。確かに、一番近い住宅だと、窓を開けた正面にカワウがいるような場所でした。養鰻池は小さく、この場所にカワウのねぐらを残したまま被害を減らすのは、かなり難しい状況でした。個体数も200羽ほどいるようで、確かに、一度に追い出せば、近くに新しいねぐらができるかもしれません。
 そこで、追い出しの圧力は徐々にかけたほうが良いことなど、対策の段取りについてアドバイスしました。そして、事前にカワウの個体数を調べておくことや、対策を始めて個体数が減ったら、新しいねぐらができていないか、可能性の高い場所をパトロールすること、新しくできていればすぐに追い出すことが重要だと伝えました。また、県のカワウ対策の方針と真逆の対策をしてはいけないので県に問題がないか確認すること、北に隣接する鈴鹿市には影響があるかもしれないので、対策について事前に説明をしておく方が良いということも伝えました。

追い出されたカワウはどこへ行く?


 さあ、そのうえで、追い出したカワウが行きそうな場所を絞り込みます。津市は結構大きいので、沿岸部、川岸、溜池やダム湖などを全部見て周るのは市の職員が他の業務をしながらやるのは困難です。まず、市の白地図を送ってもらうことにしました。そして、航空写真で確認しながら、対策をする養鰻池のねぐらから少しずつ範囲を広げてカワウがねぐらにしそうな場所を調べていきます。200羽規模のねぐらがあるということは、近くに彼らが好む採食場所があるはずです。考えられるのは、津市の東に広がる伊勢湾とそこに流れる志登茂川や安濃川の中下流部。新しいねぐらができるとしたら、これらの場所に片道10~15kmで行ける場所です。水辺に木が張り出している林があり、前面の水面にある程度広さがあり、その林の中には道路が走っていないこと、人の往来から死角になるような場所をカワウは好むので、こうした場所をチェックしていきます。

 まず、目にとまったのは北に500mほど志登茂川をさかのぼった横川が合流する三角地帯。防波堤か何かの上に木が茂っているのが見えました。津市の担当者の観察から、既存のねぐらの西に200m、線路を挟んで続いている養鰻池の西の端の方も、人家からは少し離れていて、可能性が高そうです。少し輪を広げていくと、西に1.5kmの新池、西に5kmの位置を南に流れたあと弧を描いて東に流れる安濃川の中流部の川岸にも良さそうな林がありました。
 見る範囲をさらに広げていくと、溜池は無数にあり、この中から、水面の広さや地形や道路の位置などで、カワウが好まないであろう池を除外し、可能性の高そうな池とそうでない池とをわけて印をつけて行きました。河口や船着き場の防波堤もピックアップします。こういう場所は航空写真でもカワウがたくさんとまっていると、黒い点々で確認することができます。10kmほどまで見る範囲を広げていくと、南にある雲出川古川の河畔林に、カワウの糞で白く汚れたような跡が見えました。航空写真の画質がそれほど高くなかったので、断定まではできませんでしたが、カワウのねぐらの可能性が高いと思いました。

 一通り航空写真でチェックし終えたあとに、手元にあった過去のねぐらの位置情報と照らしてみました。津市の周辺では、航空写真であやしいと思った雲出川古川に比較的個体数の多いねぐらの記録があったほか、航空写真からは痕跡を見つけることはできなかったのですが、北北東に約7kmの田中川の河口にも、ねぐらがあったことがわかりました。
 今も雲出川の河口部に大きなねぐらがあるとしたら、問題になっているねぐらで対策をした場合、安濃川より南は、考えなくて良さそうです。それより南でカワウが生活したいなら、雲出川古川のねぐらを拠点にすればよいので、新しいねぐらをあえて作る理由がありません。

 これらのことから、カワウがどこかに追い出されて行くとしたら、既存のねぐらに行く可能性もありますが、対策をするねぐらから距離が近い志登茂川と横川の合流点や養鰻池の樹林、新池、あるいは安濃川あたりに新しいねぐらを形成する可能性も十分に考えられると見立てました。
 これをベースに、ねぐらからカワウを追い出す際のプレッシャーのかけ方、誘致する場合の方法、対策の経過の確認の仕方、関係者への情報共有などについて改めてメールで詳しくアドバイスし、カワウがねぐらを作りそうな場所に印をつけて、星の数で可能性の大小を示した白地図を津市に郵送しました。

津市の対策とその結果


 その後、津市から経過を教えて頂きました。対策の実施にあたっては、地域住民の方たちにカワウのねぐらが拡散してしまった場合のデメリットについて理解してもらい、それを避けるために、住民が要望していた皆伐をいきなりするのではなく、影響を確かめながら少しずつ進める方針を立てて説明を行ったようです。その際に、僕が作った地図も活用し、事前に可能性の高い場所については現地で確認もされたようでした。

 そして、実際の対策はまず、林の間に生えた背丈の高い竹を伐採する作業から取り掛かったそうです。この作業は11月中に7回行われ、個体数が多かった最初は1週間あけて実施されたようです。対策の実施前の10月13日に216羽だったカワウの個体数は、3回目の対策のときには約50羽にまで減り、11月下旬には0羽になったそうです。
 その間もカワウの行動は観察して、南へカワウが飛んでいく様子を確認し、12月9日には、カワウがねぐらを作る可能性の高い場所をチェックして周ったところ、カワウのねぐらが新しくできていないことを確認し、市としては、雲出川古川のねぐらにカワウは移動したと判断したそうです。その後も、カワウの数を調査しながら、カワウが戻ってこないように竹の伐採作業が続けられました。最新の情報では、5月17日にも調査が行われ、カワウが戻ってきていないことが確認されています。今後も市と住民で協力して見張っていくということでした。

カワウのねぐらの個体数の変化.対策の実施前に事前調査が行われており、対策の実施日には、実施前と実施後に調査が行なわれた. データ提供:津市


まとめ


 冒頭にも書きましたが、カワウの管理は都道府県全体のカワウの生息状況を視野に入れて、計画的に進める必要があります。カワウによる被害は内水面漁業への影響が問題視されることが多いのですが、近年は、ねぐらが住宅地の近くにできて生活環境被害が起きる事例が増えてきました。この場合、市町村など現場に直接かかわる関係者の判断だけで追い出しをしてしまい、ねぐらの箇所数が増えて調査や漁業被害対策がし難い状況になることもあります。都道府県として、カワウのねぐらをどこに残して、どう管理していくのかについて方針を持っているところは、ごく一部です。方針がない場合には、できるだけ、近隣の既存のねぐらにカワウに行ってもらう工夫が大事ですし、少なくとも、新しいねぐらができていないかどうかチェックし、行ってほしくない場所にねぐらが新しくできそうであれば、そこでの対策も必要になってきます。

 しかし、こうした対応について市町村への周知ができていないのも事実で、どうすればよいかわからなければ十分な対応を求めるのは酷ですし、多忙を極める地方行政にあって、横の連携は不得手な分野です。予算がなければ、できることも限られます。今回の津市の事例では、専門家の意見を聞いたり、Web上の情報を調べたり、横の連携をとったりという部分は、かなりハイレベルにこなされていましたが、予算面はかなり厳しい状況でした。それでも、職員の努力でできる範囲で、やれることはやっていただけたように思います。市長が直接係わっていたようですので、市の職員も動きやすかった部分はあると思います。どこでも同じように、とは行かないかもしれませんが、「やろうと思ってできない訳ではない」とも感じたところです。今年度は、市町村への周知のために、住宅地の近くにカワウのねぐらができた時の対応マニュアルを作っていきたいと思っています。

カワウのねぐらを追い出すときの手順

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1.カワウとその対策について調べる
2.都道府県に連絡して、方針を把握し、周辺のねぐらの情報を手に入れる
3.専門家の意見を聞いて、対策の方針を考える
4.地域住民の意見を聞いて、落としどころを見つけ、持続可能な対策の体制を作る
5.都道府県や近隣市町村と情報共有をする
6.カワウが行きそうな場所を調べる
7.事前調査と事後調査を計画する
8.ねぐらの拡散を避ける工夫を考える
9.対策を実施する
10.結果を共有する
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