バードリサーチニュース

道具を使うハワイガラス

バードリサーチニュース2016年10月: 4 【論文紹介】
著者:近藤紀子

 道具を使う動物は、かつては人間だけだと考えられていましたが、動物行動の研究が進むにつれ、人間以外の動物も道具を使うことが明らかになってきています。鳥類では、ガラパゴスに住むキツツキフィンチなどが道具を使う鳥として知られています。(日本のハシボソガラスは車にクルミをひかせて割ることが知られていますが、「道具使用」というときには、自らで道具を保持し、対象物に対して何らかの操作を加えることを指します。)最近、道具を使えるだけでなく作成することで一躍有名になったのが、カレドニアガラスです。カレドニアガラスは小枝やトゲのある葉を加工して道具を作り、採餌に使います。これだけ聞くと、「カラスは道具も使えて賢い」という印象を強く与えますが、カラス属のなかで道具を自発的に使えるのは、これまではカレドニアガラスしか知られていませんでした。

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道具作成・使用で有名なカレドニアガラス

 しかし、カレドニアガラスの他にも道具を使えるカラスがいることが、セントアンドリュース大学のルッツ博士たちの研究チームによって明らかになりました。ハワイ固有種のハワイガラスです。ハワイガラスはすでに野生下では絶滅しており、現在は109羽(2013年現在)が飼育されているのみです。研究チームは、ハワイガラス104羽について実験をおこない、彼らが自発的に道具を使用することを明らかにしました。丸太や実験装置の穴や隙間に餌を隠し、その手前に小枝や葉のついた枝を置いておいたところ、ハワイガラスは適切な長さの枝を道具として使用し、ほとんどの場合60秒以内に餌を獲得することができました。小枝を加工して使いやすくしたり、葉のついた枝から道具を作成したりするといった行動も見られたそうです。

ハワイガラスの道具使用は生まれつき

さらに研究グループは、これらの道具使用行動が生得的なものかを調べるため、7羽の幼鳥を成鳥が道具を使っているところを一切見せずに育てました。その結果、すべての個体が木の枝などを道具として使うようになりました。このことから、ハワイガラスにおける道具使用行動は生得的なものであることが示されました。残念なことに、野生のハワイガラスはすでに絶滅しているため、彼らが野生下でも道具を使用していたのかを知ることはできません。しかし、ハワイガラスが保護のために飼育され始めたのは1970年代であり、わずか数世代で生得的な道具使用が獲得されるとは考えにくいため、野生下でもハワイガラスは道具使用をしていたと推測されます。また、眼球がよく動き、両眼視野が広いことや、下嘴に角度がついていて、ちょっとしゃくれたように見えるといった形態的な面でも、ハワイガラスはカレドニアガラスに類似しており、道具使用に適した形態に進化してきたことを示唆しています。

道具使用行動を進化させた環境要因

カレドニアガラスとハワイガラスは、系統的にみて近縁ではないことから、道具使用はそれぞれの種で独自に進化した行動であると考えられます。ルッツ博士らは、亜熱帯の島という2種に共通した生息環境が、道具使用の進化を促したのではないかと考えています。これらの島では、届かない場所にある餌への競争が熾烈でなく、天敵が少ないといった特徴があります。道具を使って餌を取るためには、適切な道具を探したり、自分で作成したりする必要があります。天敵が多い場合はそんな悠長なことをしていると捕まってしまいますが、天敵が少なければ届かない場所にある餌を時間をかけて取ることができるので、道具使用が進化したのではないか、というわけです。道具使用をする鳥が少ないのは、道具使用を可能にする島のような環境が少ないためではないかとルッツ博士らは述べています。今後、これら2種と類似した環境に住む鳥を調べることで、鳥類における道具使用の進化がさらに明らかになることが期待されます。日本のハシブトガラスやハシボソガラスもあまり天敵がいないので、何らかの環境の変化が起こり、くちばしでは直接取ることができない場所にある餌を取らなければ生きていけないようなことになったら、いつか道具を使うようになるのかもしれません。

ハワイガラスが道具を使っている様子は、以下の動画でご覧になれます。
https://www.youtube.com/watch?v=ZOUyrtWeW4Q

 今回ご紹介した論文
Rutz, C. et al. (2016).  Species-wide tool use in the Hawaiian crow. Nature 537, 403–407.