○英名 Stejneger’s stonechat 学名 Saxicola stejnegeri
○分類 スズメ目 ヒタキ科
○鳴き声
雄は,木や小高い草のてっぺんのソングポストに止まり,「ヒュルヒヨーヒー」などよく響く美しい声でさえずる.4月から8月ごろまでさえずるが,抱卵前の時期に特に良く鳴く.ソングポストからしばしばさえずり飛翔を行なう.地鳴きは「ヒッ」や「ジャッ」,「ガッ」.
○分布
国内では,夏鳥として北海道の全域と本州中北部の高地で繁殖する.九州では熊本県阿蘇山で夏季に観察例がある.春秋には旅鳥として全国を通過する.西日本~南西諸島ではまれに越冬個体が見られる.
○生息環境
繁殖期の北海道では,海辺から山間にかけての多様な開放的な環境に生息する.石狩・胆振地方では,灌木が少ない河川敷,ハマニンニクやハマナスに覆われた海浜草原,ススキなどに覆われた乾燥した二次草原,ヨシの間にスゲ類が生い茂った湿地で密度が高い.農耕地も全道的に主要な生息環境で,耕作放棄地のほか,道路脇の法面,畑のあぜ道などでも小さな草地空間を利用して繁殖する.
本州では繁殖期には低地には生息せず,高地にある灌木の散在する草地で繁殖する.非繁殖期は,岬や農耕地を中心に見られる.
○食性と採食行動
鞘翅目(コガネムシ類,ゴミムシ類),鱗翅目(蛾や蝶類の幼虫・成虫),半翅目(カメムシ類),膜翅目(ハチ類),双翅目(ハエ類),脈翅目(ウスバカゲロウ)など多岐にわたる昆虫類を食べる.採食方法は主に2種類あり,フライキャッチと目視で対象を見つけ地面を歩いてついばむ方法をとる.また,繁殖個体が雛へ運ぶ餌を観察したところ,イモムシを専門に運ぶ個体,鞘翅目を専門に運ぶ個体などがおり,餌種が個体によって分かれていた.
○本州を通らず直接大陸に渡る
ジオロケータをつかって北海道石狩平野で繁殖するノビタキの雄12個体の秋の南下ルートを追跡したところ,10月初旬に北海道から直接大陸に渡り,沿海地方南部・ハンカ湖周辺に一時滞在した.その後,華北平原を通過し,中北南部からインドシナ半島(ラオス,カンボジア,タイ,ベトナム)で越冬した(Yamaura et al. 2016b).
なぜ石狩平野のノビタキは本州を経由せず大陸に渡るのだろうか? この問いに答えるための鍵は,ノビタキが北海道に定着した過程にあるかもしれない.1万3千年ほど前,最終氷期の北海道は寒冷で乾燥しており,草地が広がっていた.サハリンを通して大陸とつながっていた北海道には,マンモスをはじめ多くの草地性生物が大陸から渡来してきたと考えられている.ノビタキも同様に北海道に定着したために,このルートが現在も残っているとは考えられないだろうか? 実は,同様のルートは大陸に広く分布していたシマアオジでも推測されてきた.今後,様々な種の渡りルートを明らかにすることで,この問いの答えが見えてくるかもしれない.
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