バードリサーチニュース

研究誌新着論文:シギ・チドリ類の分布に影響する要因,カラス類のごみ対策

バードリサーチニュース2016年6月: 5 【研究誌】
著者:植田睦之

研究誌に2つの論文が掲載されました

山本正岳・佐野光彦:東京湾の干潟における底質環境とマクロベントス量がシギ・チドリ類の分布と採食へ与える影響. Bird Research 12: A1-A17

大きなゴカイを捕らえたダイゼン(撮影:三木敏史)

大きなゴカイを捕らえたダイゼン(撮影:三木敏史)

 「ここ,良い感じの干潟なのに,なんでシギチがいないんだろう」って思ったことありませんか? もしかするとその場所が渡りのコースから外れているためかも知れません。また,良い干潟に見えるけど実はシギチの食べ物になるカニやゴカイなどの底生生物が少ないのかもしれません。
 この論文は東京湾でシギチの生息数に影響を与える環境要素について検討したものです。シギチを採食方法で「視覚・連続つつき型」「視覚・立ち止まりつつき型」「触覚・連続つつき型」に分け,その数と底生生物の量や干潟の底質などと比較しました。すると,ダイゼンなどの「視覚・立ち止まりつつき型」とハマシギなどの「触覚・連続つつき型」が東京湾北部の干潟に偏って分布していて,ダイゼンの分布には大型のゴカイ類,ハマシギの分布には大型,小型ゴカイ類の密度が影響していそうだということが見えてきました。
 この研究は東京湾の2地域を比較しただけなので,これが他地域のシギチについても通じることなのかはわかりません。いろいろな地域で調査がされると,シギチの生息に影響する要因が明確になって,保護に役立つようになりますね。と,他人事のように言ってみましたが,モニ1000のシギ・チドリ類調査の事務局をやっているバードリサーチが簡便な底生生物の調査方法を開発し,実施していくべきことなのでしょうね。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.12.A1

 

平田祐介・三上修:カラス類はどんな出し方のごみを荒らすのか:函館市における事例. Bird Research 12: A19-A29

 カラス類は,しばしば,ゴミ置き場で生ゴミを食べ,ゴミを散らかします。この論文は,どのような出し方をされたゴミが荒らされやすいのかを函館市で調べたものです。函館では,金属製のメッシュ容器にゴミを入れているところが多く,東京などでは比較的効果があるとされているゴミにネットをかける方法は,効果的ではないそうです。どんな対策が被害軽減に効果的で,どんな対策が効果的でないのかは,周囲のゴミ置き場でどんな対策がなされているかで決まる相対的なものなのでしょう。
 また,一軒家よりも集合住宅で出されたゴミの方が荒らされやすいこともわかりました。集合住宅は,ゴミの管理の責任の所在が曖昧で,無責任になりがちで,ゴミの出し方がいい加減になるためだろうと平田さんたちは考えています。
 他人まかせ,他人事で,自分がちゃんとやらない奴,最低ですよね。でも気づかぬうちに,いつのまにか自分も最低の奴になっているのが人間ってもの。ちゃんと生きていきたいと思いました。この論文は「生き方」についても考えさせてくれます。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.12.A19