バードリサーチニュース

今年のID-BIRD try

バードリサーチニュース2016年6月: 4 【活動報告】
著者:守屋年史
写真1

写真1:人工営巣地で繁殖するコアジサシ(リトルターン・プロジェクト提供)

試行錯誤を続けているID-BIRD tryですが、今年度も6回ほどの実施を予定しています。

現在までに実施された2回の実習について報告します。5月21日には、森ヶ崎水再生センターでNPO法人リトルターン・プロジェクトさんとコアジサシ調査実習を行い、6月4-5日は、富士山でLASP(Long Term Study of Avian Species Project )富士山鳥類調査グループの森本さんと合同で垂直分布調査実習を行いました。

◯コアジサシ調査実習

写真2

写真2:コアジサシ実習風景

集団営巣性鳥類コアジサシの営巣調査です(写真2)。この調査は、東京都大田区の森ヶ崎水再生センター屋上のコアジサシ人工営巣地において、リトルターン・プロジェクトさんが毎週行っています。広くボランティアを募集しており一般の方でも参加できますが、普段できない経験が積めるため、昨年からID-BIRDの実習も合同で実施させてもらっています。まず午前中に、コアジサシに関するレクチャー、森ヶ崎で繁殖する他の鳥類、調査方法・配慮事項などの説明を受けました。調査はコロニー内の巣の位置を正確にプロットして、卵やヒナの数を記録していきます。調査の前には、講師がウズラの卵をコアジサシの卵に見立て、営巣環境の敷地に置いておき、そこから卵を探すという練習があります。練習場所を一列になってローラー作戦で探していくのですが…、卵の模様が地面に敷かれた小石の模様に擬態していて、これがなかなか見つかりません。踏みそうになりながらも、往復してほぼすべてを確認できました。
午後からは、実際の調査を行いました。始めは慎重に足を踏み出していましたが、慣れてくるとちょっと盛り上がっている場所や、白い貝殻片が集まっている場所など、巣がある場所のパターンが見えてくるようになります。それでも、何気ない所にコロンとある卵もあるので緊張感を持って実習を行いました。
さて、この調査結果はどのようなことにつながるのでしょうか?リトルターン・プロジェクトでは、人工営巣地がうまく機能するように、整備→モニタリング→結果分析→改良整備という流れで管理を行っています。コアジサシの利用状況の評価は、調査による営巣数、繁殖成功率の把握により行っています。モニタリングによって、白い地面にコアジサシの誘引効果があることや、親鳥が夏の暑さを和らげるために腹部を水に浸してきて卵の温度を下げることがわかってきており、白い基質(貝殻片)を撒いたり、水場を作るなど、地道な調査が順応的な管理のための基礎データとして役立っていることを参加者に学んでもらいました。

◯富士山調査実習

写真3

写真3:富士山実習ミーティング

富士山での実習は、昨年は神奈川側の須走口でしたが、今年は、山梨側の吉田口で垂直分布に関する実習を行いました。
1日目は現地予習と、富士山で鳥の調査や環境教育活動をしているLASP富士山鳥類調査グループの森本さんから、富士山の環境や人の利用、鳥類の様子について講義を受けました。その後、ミーティングをして午後9時には就寝しました。翌午前3時に起床し、午前4時30分には現地で調査を始めました。しかしながら、雨!森林の鳥の調査は耳が頼りになりますので、雨の日は普通は中止しますが、今回は実習ということで続行しました。
各5-6名の3班に別れ、吉田口入り口から五合目まで少しずつ高度を上げながら10分のスポットセンサスを行いました。結局、雨は降り続け、雨に強く打たれて待機も強いられましたが、幸いメボソムシクイ、ルリビタキ、カラ類はそこそこ鳴いてくれました。
午前8時半に調査を終了し、宿に戻ってまとめと総括を行い(写真3)、標高毎に確認した鳥をまとめました。結果の詳細は、将来的に論文としてまとめる予定とのことです。参加者の皆さんにはオオルリとキビタキといったヒタキ類、シジュウカラやヒガラといったカラ類などの垂直分布の違いとすみ分けを実感してもらいました。また、森林性鳥類の調査における鳴き声の判別の重要性を知っていただけたと思います。鳴き声での種判別は慣れないと難しいのですが、調査を行うからには避けては通れません。ただ、今回は熟練者と一緒に調査を行うことにより判らない声をすぐ質問できて良かったなどの感想がありました。
おまけに富士山梨ケ原演習場の草原で、オオジシギのディスプレイフライト、ホオアカ、コジュリン、ノビタキ、コムクドリなど富士山麓の鳥を楽しんで解散しました(写真4)。

写真4

写真4:富士山山麓でバードウォッチング

◯今後

ID-BIRDの今後の方向性としては、ただの野鳥観察に終わらないもの、実際の調査に参加できるものなどを意識して実施していきたいと思います。調査や研究に関係する座学も企画していきたいと考えています。また、参加者のレベルにどう合わせていくかや、関東近辺以外の会員の方にも参加していただくにはどうするかなど課題も含めて改良していきたいと思いますので、ご意見などいただけたら幸いです。

  

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