バードリサーチニュース

ワシたちは回らぬ風車が危険でないことを知っている

バードリサーチニュース2016年5月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ)・島田泰夫(日本気象協会)

 風力発電が鳥に与える影響の1つが風車に鳥が衝突するバードストライクです。特にオジロワシのバードストライクが問題になっており,2011年5月までに27件の衝突事故が確認されています(白木 2012).
 この問題を解決するには,バードストライクの起きやすい場所に風車を建設しないこと,そして既設の風車にバードストライクが起きにくくするような工夫を施すことが重要です。日本気象協会とバードリサーチは環境省の「海ワシ類における風力発電施設に係るバードストライク防止策検討委託業務」を受託し,風車のブレードに着色することでバードストライクが減らせるかを調査してきました。その中で,オジロワシとオオワシが稼働している風車が危険で,稼働してない風車が危険でないことを認識していることが見えてきました。


ブレードに着色した風車と,それを避けて海岸線沿いを飛んでいくオオワシの成鳥

 

調査のメインはセオドライトという機械を使って,ワシの移動を三次元で把握しています。吹雪の中の調査なので,すぐに眉毛や髭に雪がついて,サンタクロースみたいになってしまいます。

調査のメインはセオドライトという機械を使って,ワシの移動を三次元で把握しています。吹雪の中の調査なので,すぐに眉毛や髭に雪がついて,サンタクロースみたいになってしまいます。

 この調査は2013年度から行なっています。2013年度には風車のブレードに着色していない状況で調査し,2014年度と2015年度は着色して調査をし,その効果を明らかにしようというものです。着色の有無が衝突事故の多寡に影響するかを調べるのが王道ですが,事故はそう頻繁に起きることではありません。あわせて風車にワシがどの程度近づくのかといった行動を調査しました。

 2016年1月,現地調査に行ったぼくたちをショッキングなことが待ち受けていました。なんと風車が止まってしまっていたのです。折しも成人の日の連休の真っ最中。管理者にお願いして,風車を動かしてもらうわけにもいきません。
 ブレードの着色の有無がワシの行動に及ぼす影響を知るには,着色以外がほぼ同じ条件下で調査し,それらの結果を比較する必要があります。これでは着色の影響を知るためのデータをとることができません。でも俯いてばかりはいられません。それならば,と,1月の調査で得た風車が止まっているときのデータと,風車が通常稼働していた2月のデータとを比較することで,風車の稼働状況がワシ類の飛行に及ぼす影響を解析してみました。

風車が止まっているとワシは風車を避けない

 

図 ワシの飛行位置と風車の稼働状況との関係。風車のない場所での飛行状況は,風車が設置されている崖から内陸に20mの位置を0として飛行位置を示した。

図1 ワシの飛行位置と風車の稼働状況との関係。風車のない場所での飛行状況は,風車が設置されている崖から内陸に20mの位置を0として飛行位置を示した。

 調査地のワシたちは,海岸にある食物を探索するためか,海岸線に沿って飛んでいます。そこで,彼らの飛行位置が風車の位置を基準に,海側なのか内陸側なのか,そして風車からどれくらい離れて飛んでいたのかをレーザ距離計を使って調べ,比べました。
 風車稼働時,ワシたちが風車よりも内陸側を飛ぶことはめったになく,オジロワシが1回飛んだだけでした(図1の「風車稼働」)。ワシ類は風車を避けて海側を飛んでいるために(植田ほか 2015),このような飛行分布になるのだと思われます。ところが風車が稼働していないときは,風車のすぐそばや内陸側をも飛ぶようになりました(図1の「停止」)。この飛行位置の分布は,植田ほか(2015)の海岸線の風車のない場所での飛行位置(図1「風車なし」)と似ています。つまりワシたちは風車が稼働している場合は,風車を「危険なもの」として避け,停止している場合は「危険でないもの」として気にしない判断ができているのだと思われます。

それなのに,なぜワシは風車にぶつかる?

 ワシたちが風車の危険性を理解できているにも関わらず,なぜバードストライクが起きてしまうのでしょうか。その原因の1つには以前ニュースで簡単に紹介した「よそ見」が考えられます。現在,その後蓄積したデータを合わせて論文にまとめていますので,完成したら,またご紹介したいと思います。

 この調査は,「海ワシ類における風力発電施設に係るバードストライク防止策検討委託業務」の中で行ないました。環境省野生生物課には発表の許可をいただき,乃美大佑,長谷部真,夏川遼生,吉原努,山元嘉基,嶋崎暁啓の皆さんには調査にご協力いただきました。ありがとうございました。

引用文献
白木彩子 (2012) 北海道におけるオジロワシ Haliaeetus albicilla の風力発電用風車への衝突事故の現状. 保全生態学研究 17: 85-96.
植田睦之 (2014) オジロワシはなぜ風車にぶつかる? 海岸の食物がワシの行動にあたえる影響. バードリサーチニュース 11(5): 3.
植田睦之・島田泰夫・福田佳弘・三上かつら・環境省自然環境局野生生物課 (2015) オジロワシとオオワシは風車を避けて飛ぶ? Strix 31: 67-75.