湖沼で行うガンカモ類の個体数調査では、数千羽を超えるような生息地であったり、周囲が平坦で高い場所から群れを見ることができないときには数をカウントするのが困難です。こうした場合にドローンを使って空撮した写真から数をカウントすることが可能かどうか、環境省のモニタリングサイト1000ガンカモ類調査の一環として各地で試行調査を重ねてきました。
結論を先に書くと、ドローンの空撮はハクチョウ類の個体数調査には有効でしたが、ガン類やカモ類の場合は撮影条件がよくないと目視調査の精度や効率を上回ることができないと思われます。ただ現状の問題は、今後のドローンの性能向上によって解決できるかもしれません。
今回は今年の3~4月にドローンを使って行ったマガン調査の実験結果についてお伝えします。なお、水面にいるガンカモ類はドローンをあまり警戒することがなく、空撮を行っても撹乱は小さいことが分かっています。ドローンに対するガンカモ類の警戒行動やドローンの機能説明については、、ニュースレター2月号のドローンを利用したガンカモ調査をご覧下さい。
マガンは夜間のねぐらとして湖沼を利用するため、日没前後のねぐら入りか、日の出前後の飛び立ちの時間帯にカウントを行うことが一般的です。短い時間のあいだに空中や湖面(生息地によって、どちらの状態を数えるかは異なります)にいる数千から十万羽以上のマガンをカウントするため、目視調査をするには相当な熟練が必要です。またガンカモ類全般についても言えることですが、平地にある池や湖に生息するため周囲に小高い場所がなく、水面にいるマガンをカウントする場合は、ほとんど真横から観察することになってしまいます。そうするとマガン同士が重なって見えてしまい正確に数えることができなくなります。そこで、ドローンを使って真上から写真撮影をすることで、マガンの数をカウントしようと試みました。
小さな沼での空撮(北海道三角沼)
三角沼は北海道の石狩川流域にある長径350m×短径220mほどの小さな沼です。マガンの中継地として有名な宮島沼から2kmほど離れた農地の中にあり、春の北帰の時期にマガンとオオハクチョウが利用します。
昨年11月に伊豆沼でドローンを使ってマガンを撮影した経験から、真上から見るとマガンの色は水と見分けにくいため、見落とさないように撮影するには低い高度を飛ばなければならないことが分かっていました。そこで、高度50mで沼全体を網羅するように飛び、撮影した33枚の写真を合成しました(図2)。なお、ドローンは事前に設定した位置を自動的に飛行しながら撮影を行うのですが、当日は風が強かったためにコースが少しずれて、撮影できない空白部が生じてしまいました。
図2の写真では、白い点がオオハクチョウ、薄茶色のケシ粒のような点がマガンです。利用したドローンのカメラ性能では高度50mからでは種の識別ができないのですが、三角沼はほぼマガンとオオハクチョウしか利用していないという目視観察の結果から種を推定しています(図3)。
撮影時間は日の出の20~10分前の薄明時ですが、すでに撮影前にかなりのマガンが飛び立っていて、実際には図2に写っているよりも多くのマガンがいたはずです。オオハクチョウはもっと遅い時間に飛び立つのでカウントが可能ですが、マガンをカウントするにはもっと高感度のカメラを使って、さらに早い時間帯に撮影をする必要がありそうです。
今回撮影した写真を使った個体数カウントは、画像処理ソフトを使って自動で行う予定です。結果はまた後日、ご紹介したいと思います。
日本最大のマガンねぐらでの空撮(秋田県八郎潟)
八郎潟は本州から北海道へ渡るマガンの中継地で、国内最大のマガン越冬地である宮城県から来るマガンと、日本海沿いを北上してくるマガンとが合流し、日本で最も多くのマガンが集まる場所になっています。マガンがねぐらに使うのは干拓地の南側にある調整池で、その数は十数万から二十万羽以上と推定されています。八郎潟では夜明け前に水面にいるマガンの数を目視調査していますが、調整池の周囲には小高い場所がないことから、個体数調査が難しい場所になっています。
ねぐらにいるマガンをドローンから動画で撮影したようすをご覧下さい。(1280×720ピクセルで作成しています。Youtubeの画質を720Pにすると高品質になります。動画ファイルのダウンロードはこちらから。)
図4に、ドローンでの撮影でわかった八郎潟調整池のマガンがねぐら入りしている範囲を示します。群れの広がり方は日によって違っており、小さくまとまっていた3月4日でも幅は1kmを越えていました。これではドローンの飛行時間の制約から、三角沼のように、ねぐら入りしているすべての範囲撮影して1羽ずつ数えることはできそうにありません。しかし群れ全体の面積と個体数密度から全数の推定はできそうなので、来シーズンにその方法で推定を試みてみたいと考えています。
マガンの個体数密度
図5は、伊豆沼、八郎潟調整池、三角沼で撮影したマガンの写真を並べたものですが、おもしろいことに、どの場所でもマガンは均等な間隔で水面にいることがわかります。このような習性があるので、前述のように群れの面積と密度から全体の数を推定することが可能かもしれないのですが、もしマガンに一定の個体間距離が必要だとすると、日暮れに湖沼の上空に来たときに、すでにねぐら入りしているマガンの個体間距離が許容限界を越えていた場合は、それ以上のマガンは降りられなくなるかもしれません。マガンは警戒心が強いため夜間に人が近づかない湖沼しかねぐらに利用することができず、マガンの増加につれて既存のねぐらの個体数密度が高まってきています。密度が限界を超えた湖沼ではマガンを収容できなくなる可能性があるため、新たな生息地の創出が必要ではないでしょうか。
ドローンを利用したガンカモ調査の将来性
ドローンでガンカモ類を撮影するときには、カメラ性能と飛行時間が問題になってきます。バードリサーチが使用しているドローン(DJI社のPhantom 3)に内蔵されているカメラはスマートフォン程度の性能で、飛行時間は仕様では23分です(調査中は安全のため、余裕を持って15分ほどで帰還させています)。カメラの解像度が低いので(4000×3000ピクセル)狭い範囲しか撮影できず、そうすると撮影枚数が増えますが長い時間は飛べないため、広い場所を網羅的に撮影することができません。狭い範囲で何枚もの写真を撮影していると、全体を撮影するまでにガンカモが動いてしまい、写真を合成してカウントすることがうまくできなくなるという問題もあります。
現時点でいちばん長く飛べるドローンでも飛行時間は30~40分しかありませんが、大型のドローンに高解像度の一眼カメラを搭載すれば、より上空から広い範囲を撮影できるので、飛行時間の短さもある程度補うことができます。ただ、それにはかなりお金がかかるのが問題です。
現在のドローンの状況はパソコンやスマートフォンの黎明期に似ていて、高性能な製品が次々と発売されていますから、近い将来、高性能のカメラを搭載して飛行時間も長くなったドローンが低価格で買えるようになるはずです。
高解像度のカメラでカモ類の識別まで可能になれば、広い湖沼にたくさんのガンカモがやってくる場所や、調査員の人数が足りない地域で、ドローンは調査の強力な助っ人になるだろうと思います。今後の技術の発展に期待をしています。