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新人スタッフ&研究紹介(佐藤望) ~南太平洋における托卵研究最前線~

バードリサーチニュース2016年4月: 2 【お知らせ,レポート】
著者:佐藤望

staff_sato2016年度よりバードリサーチに加えていただいた佐藤望です。
子供の頃から海外に行くことに憧れを抱いていて、大学時代に自転車でイベリア半島横断に挑戦しました。 そこで出会った鳥たちが日本にいる鳥と少し様子が違うことに気づき、それがきっかけで、大学では鳥類学の研究室に所属しました。 幸運な事に卒業研究から博士号を取るまでの間、大好きな海外で調査・研究をする事ができました。オーストラリアの”Top end”と呼ばれている熱帯地域、ニュージーランド南島の田舎町、ニューカレドニアの海が見える山奥など、これまで様々な調査地でカッコウ類の托卵に関する研究をおこなってきました。今回は私が今まで行ってきた研究を紹介します。

南太平洋の托卵をめぐる攻防

カッコウ類の托卵
鳥たちの多くは自分で子育てをおこないますが、中には抱卵から育雛に至るまでの全てを赤の他人(他種)に押し付ける鳥がいます。最も有名な鳥はカッコウCuculus canorusで、カッコウのメスは産卵期のオオヨシキリやモズなどの巣にこっそり近づいて、巣内に自分の卵を産みます。巣の主は自分の卵と共に、カッコウの卵を抱卵し、ふ化させます。カッコウは通常、他の卵よりも早くふ化し、ヒナになると他の卵をすべて巣の外へと押し出してしまいます。これによって、仮親が運んでくる餌を独り占めし、仮親の何倍も大きく成長して、やがて巣立っていきます。 このように自身の子の世話の一切を他の鳥(宿主と呼びます)に強要することを托卵と呼びます。巨大なカッコウのヒナに餌を運ぶ小さな小鳥の姿はとても異様で、多くの生物学者達を魅了してきました。 私もその一人で、オセアニアに生息しているアカメテリカッコウChalcites minutillus(写真a) の托卵行動について研究してきました。カッコウと同様、テリカッコウ属も托卵をおこないますが、いくつか異なる点があります。

図1

(a)アカメテリカッコウ ©谷英雄 (b)センニョムシクイ属(左)とテリカッコウ属(右)の卵 (c)ヨコジマテリカッコウのヒナを排除するカレドニアセンニョムシクイ (d)カレドニアセンニョムシクイ©岡本勇太 (e)カレドニアセンニョムシクイのヒナ 体色が薄いタイプと濃いタイプがある

テリカッコウ属の宿主は卵を捨てない
ひとつ目の違いは卵の模様についてです。カッコウは宿主の卵と色彩や模様がよく似た卵を産みます。これは宿主がカッコウの卵を見分けにくくするために擬態しています。実際、宿主の卵と似ていない卵を巣内に入れてみると、多くの宿主はその卵を巣の外に捨てます。一方、アカメテリカッコウの卵は宿主の卵と色彩も模様も異なりますが(写真b)、宿主はその卵を受け入れます。

テリカッコウ属の宿主はヒナを捨てる
ふたつ目の違いは宿主の行動についてです。カッコウの宿主は巣内にカッコウの卵があることに気が付くと、その卵を巣外に排除したり、巣ごと放棄して新しい巣を造るといった行動がよく知られていますが、カッコウのヒナに対しては、見た目や大きさが宿主のヒナと異なるにもかかわらず、宿主は盲目的に餌を運び続けます。一方、オーストラリア熱帯地域に生息しているアカメテリカッコウのヒナは宿主のヒナに擬態していますが、その宿主のハシブトセンニョムシクイGerygone magnirostrisはアカメテリカッコウのヒナを巣の外に持ち去る事が私たちの調査でわかりました(論文1)。 宿主によるヒナ排除行動はその後も他の熱帯地域に生息しているカレドニアセンニョムシクイなどで発見されました(論文2、写真c)。一方で温帯地域に生息しているセンニョムシクイ属では今のところ、ヒナ排除行動は見つかっていません。恐らく熱帯地域の鳥類の特徴(温帯地域と比べて宿主の産卵数が少ないことなど)がヒナ排除行動の進化に関係していると考えています(論文3)。 このようにカッコウ類とその宿主の間では托卵をめぐって熾烈な争いが繰り広げられています。センニョムシクイ属はヒナの識別、排除といった対托卵行動を進化させ、テリカッコウ属のヒナは宿主のヒナに擬態するといった共進化が起きています。さらにニューカレドニアに生息するカレドニアセンニョムシクイのヒナは個体によって体色が異なる事が調査によって明らかになりました(論文3、写真d、e)。これはテリカッコウ属によるヒナの擬態に対抗して進化したと考えられます。

今後の抱負
このように私は熱帯地域を中心に鳥の調査をしていました。まだ模索中ですが、熱帯地域での経験を活かして、今後は日本の鳥たちのために貢献できればと考えています。

 論文1:Sato, N. J., Tokue, K., Noske, R. A., Mikami, O. K. & Ueda, K. (2010) Evicting cuckoo nestlings from the nest: a new anti-parasitism behaviour. Biology Letters 6: 67-69
論文2:Sato, N. J., Tanaka, K. D., Okahisa, Y., Yamamichi, M., Kuehn, R., Gula, R., Ueda, K. & Theuerkauf, J. (2015) Nestling polymorphism in a cuckoo-host system: a consequence of an escalating coevolutionary arms race. Current Biology R1164-R1165
論文3:Sato, N. J., Mikami, O. K. & Ueda, K. (2010) Egg dilution effect hypothesis: a condition under which parasitic nestling ejection behaviour will evolve. Ornithological Science 9:115-121.
参考:BSフジ ガリレオXで研究が紹介されました。
https://www.youtube.com/watch?v=8b0SsqrArlY

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