研究誌に1つ論文が掲載されました
平野敏明:新たな池の造成が秋冬期のチュウヒの狩り行動におよぼす影響. Bird Research 11: A21-A30
チュウヒの国内最大の越冬地の1つ,渡良瀬遊水地では湿地の乾燥化が進んでいます。そのため,多様な湿地環境の保全をめざして,湿地再生事業が行なわれています。この論文はその事業がチュウヒに与える影響を調べたものです。
湿地再生が行なわれている場所と行なわれていない場所,そして湿地再生の行なわれる前と後のチュウヒの利用状況を比較した結果,湿地再生を行なった場所はチュウヒの好適な採食地になったと考えられました。ただ,その効果は「秋だけ」で,冬にはないこともわかりました。
http://doi.org/10.11211/birdresearch.11.A21
なぜ,湿地再生が行なわれた場所では秋にチュウヒがよく観察されたのでしょうか。それはチュウヒの食物と関係していそうです。チュウヒってヨシ原でネズミなどを狩っているイメージがありませんか? もちろん,ネズミも重要な獲物なのですが,実は,もっと重要な獲物はカモ類などの大型の水鳥なんです(平野ほか 2005)。湿地再生を行なった場所には,秋にカモなどの水鳥が多く生息するようになりました。そのため,チュウヒが頻繁に利用するようになったと考えられるのです。しかし冬になると,再生湿地を利用する水鳥はほとんどいなくなってしまいました。そのためチュウヒも利用しなくなってしまったようです。なぜ冬に水鳥がいなくなったのかははっきりしませんが,冬に水が減ってしまったことがその原因ではないかと平野さんは考えています。この冬の水鳥減少の原因の追究や,それがもし水の減少が原因だったとしたら,その管理の方法をどうするのかなど,まだまだ課題はたくさんありますが,この研究は湿地再生を考える上で,価値のある研究だと思います。