年によって違う夏鳥の渡来時期やさえずりが活発になる時期。その年変化をモニタリングするために,バードリサーチでは,東大が中心に行なっているサイバーフォレストプロジェクトの森林のライブ音の聞き取りをしたり,各地のモニタリングサイトにICレコーダを設置して早朝のタイマー録音をしたりしています。
繁殖期が終わると各地のフィールドからICレコーダが送り返されてきます。コンピュータで自動的に何が鳴いていたのか解析できたら良いのですが,残念ながら人の耳で聞きとらなくてはなりません。今朝もせっせと耳で聞き取っていました。
まだ,いくつかの調査地の聞き取りが完了していませんが,これまでの結果から,今年は全国的に夏鳥の飛来やさえずりの活発な時期が早かったことがわかってきました。しかし長野の志賀高原では,キビタキなど早い時期に渡ってくる鳥は他地域同様に早くからさえずっていたのですが,カッコウやメボソムシクイのような遅い時期に渡ってくる鳥は例年よりもさえずるのが遅かったこともわかりました。
調査を行なっているのは,北海道3地点,関東2地点,中部3地点,四国1地点の森林です。2010年から順次調査地点を増やしつつ,実施しています。ICレコーダの調査は毎朝,日の出時刻を含む3時間の録音を行ない,そのうち,日の出前後の10分間と日の出50分後から1時間後までの10分間の聞き取りをして,何がどれくらい鳴いていたかを記録しました。ライブ音の聞き取りは,早起きして,日の出10分前から日の出1時間後までに鳴いていた鳥を記録しました。
全国的に早かった今年のさえずり
これらの結果から,今年はほとんどの調査地で例年よりも早くから夏鳥が渡来し,さえずりが活発になるのも早かったことがわかりました。例として,北海道の代表的な夏鳥であるセンダイムシクイのさえずり頻度を図1に示しました。赤の折れ線で示されている今年のさえずり頻度が灰色で示した例年のものよりも早くからはじまり,ピークに達するのも早かったことがわかると思います。
キビタキやコルリがさえずりだす時期は春先が暖かい年ほど早いことがわかっています(植田 2014 )。今年は春早くから気温の高い年でした。そのため,多くの鳥が早くから活発にさえずったのだと思われます。
例年よりも遅かった一部の種
この全体の傾向とちょっと違っていた場所もありました。長野の志賀高原です。キビタキやセンダイムシクイといった早く渡来する夏鳥や,クロジやウグイスといった漂鳥たちは,他の場所と同じように,例年より早くさえずり始めました。しかし,メボソムシクイやカッコウといった遅く渡来する夏鳥は例年よりもさえずりが聞かれるのが遅かったのです。
春先は暖かだったけど,初夏になって例年よりも寒くなったとしたら,メボソムシクイやカッコウが遅かったこともうなずけます。しかし,調べたところ,今年は初夏も気温が高かったのです。なぜ初夏の気温とさえずり時期の傾向が一致しなかったのでしょうか? カッコウの渡りの時期は理由こそわからないものの,春先の気温ではなく,前冬の気温が影響している可能性が示唆されています(出口ほか 2015)。確かにこれまでの季節前線ウォッチのカッコウやホトトギスの初認も他の種の早遅の傾向とはあまり一致していません。カッコウ類やメボソムシクイなど遅くになって渡来する種は渡来期の気温以外の何かが渡りのタイミングに影響するのでしょうか。データを蓄積しつつ,そのあたりを明らかにしていきたいと思います。