バードリサーチニュース

生態図鑑(要約版) ウミガラス

バードリサーチニュース2015年7月: 2 【生態図鑑】
著者:長谷部真(北海道海鳥保全研究会)

天売島繁殖地のウミガラス

○英名: Common Murre (米), Common Guillemot (英) 
 学名: Uria aalge
分類: チドリ目 ウミスズメ科

○羽色
 雌雄同色.嘴は濃い灰色または黒色.足は灰色または黄色がかった灰色.上面は黒褐色,下面の胸から腹・下尾筒と次列風切の先端が白い.生殖羽では頭・首が黒褐色で,非生殖羽では前頸から目の後方まで白く,目の斜め後下と後ろの頭央部に黒褐色の線が入る.巣立ちビナは成鳥の生殖羽と同じ羽色だが嘴が短い.春の換羽は1~3月頃行われる.大西洋には夏羽で目の斜め後ろが白くなる個体群がいる(葛西臨海水族園で飼育されている).

○鳴き声
 成鳥はウルーン,ウー,ウッウッ,ヒナはフィ,フィーと鳴く.

○繁殖システム
 一夫一妻.離島の崖,崖の上,まれにくぼみ・洞窟を利用して,陸上で直立し,最大34羽/m2という高密度で集団繁殖する.最も早い個体で4歳から繁殖を始める.毎年同じ繁殖地の同じ場所で繁殖することが多い.

○巣
 巣材を使わず岩などの上に直接卵を産む.

○抱卵・育雛・巣立ち
 天売島では5月中旬から6月下旬に産卵する.抱卵日数は平均32.4日(n=18)で,第1卵の孵化率は77.5%(n=45),第2卵の孵化率は75%(n=4)だった.巣内育雛日数は平均22.6日(n=15)だった.片親が常時,捕食者から卵やヒナを守る.また繁殖に失敗した親鳥がほかのヒナの世話をすることがある.ヒナは半早成性で,親の18~28%の体重で巣立つ.天売島では,7月中旬から8月上旬の17~21時の間に繁殖地から海または海岸に飛び降りて巣立ったことが確認されている.主にオスが巣立ったヒナを海上で育雛し,メスは巣立ち後も数日~2週間ほどは頻繁に繁殖地を訪れる(他のつがいのヒナの捕食回避のために繁殖密度を高めるため,あるいは翌年の繁殖場所の確保のためと考えられている).ヒナは海上に出てから独立するまでに1~2ヶ月を要する.天売島の2012~2014年の繁殖成功率は69.2~73.3%(n=45)だった.うち2つ目の卵を産んだつがいの繁殖成功率は50%(n=4)だった.また2013年以降の新規繁殖個体の繁殖成功率は25%(n=4)だった.

○今後の研究及び保護の展望
 天売島の海抜50mの切り立った岩にかつて大繁殖地があり,『赤岩』と呼ばれていた.その対岸は赤岩対崖と呼ばれ,ここにも繁殖地があった.赤岩対崖の一部にはくぼみがあり,そこも2000年代に入って繁殖地として利用されなくなったが,繁殖地が消滅しかかった2008年,ウミガラスは捕食者の攻撃を受けにくいこの場所で再び繁殖を始め,数年ぶりにヒナが巣立った.
 2009年,すでに行われていたウミガラスの誘引の場所をこの場所に変更し,デコイを増設し,声も流したが,捕食者による攻撃を十分に防げなかった.
 2011年からウミガラス繁殖地周辺で,空気銃を利用してオオセグロカモメを捕獲した結果,ウミガラス繁殖地へのオオセグロカモメの飛来は途絶え,巣立ち率が大幅に向上した.
 当面の目標は,残っている繁殖地でウミガラスの数を増やし次世代を育て,捕食者に襲われやすい開けた繁殖地で繁殖できるほどの数に回復させることである.かつてのような大繁殖地を復活させることが最終的な目標である.
【長谷部真】

◆その他掲載記事
 ・全長,翼長,翼開長,頭長,尾長,ふ蹠長,嘴峰長,嘴高
 ・分布と生息数
 ・生息環境
 ・卵
 ・渡り
 ・食性と採餌行動
 ・天売島ウミガラス繁殖地消滅の危機

有料会員の方は,こちらからウミガラス生態図鑑のPDFファイルをダウンロードできます
生態図鑑の一覧は,こちらのページでご覧になれます