バードリサーチニュース

ID-BIRD try 第8回 富士山で山の鳥を調査しました!

バードリサーチニュース2015年6月: 2 【活動報告】
著者:高木憲太郎・守屋年史・小島みずき
写真1.霧の中のスポットセンサスの練習.

写真1.霧の中のスポットセンサスの練習.

 さまざまな環境で野外実習を行ない,各種の識別や調査方法を体験していただく「ID-BIRD try」第8回を6月最初の土日に1泊2日で実施しました.場所は,富士山の東斜面,探鳥会発祥の地でもある須走を起点とするふじあざみラインです.このふじあざみラインは,ふもと側の標高が約1000m,一番上の須走口五合目の標高が約2000mなので,下から上まで1000mの標高差があります.標高ごとに気温や植生が変化し,それに伴って鳥類相が異なるので,その違いを調べてみようというのが今回の狙いです.森林環境になるので,今回の識別の主力は,目ではなく耳です.小鳥たちのさえずりを覚えて聞き分けることや,スポットセンサスのテクニックを学んでもらうことも目的の一つでした.
 今回は学生が多く参加しており,参加者は20名でした.せっかくなので,富士山に来たことを実感してもらおうと,車で5合目に集合したのですが・・・,霧がたちこめ,山頂どころか100m先の視界も怪しい始末.企画倒れでした.参加者の皆さん,すみませんでした.この日は,ルリビタキやビンズイ,メボソムシクイなどの声を聞いて,少しスポットセンサスの練習をして下山しました. 夜は宿舎で座学です.共同開催団体のLASP富士山鳥類調査研究グループの森本元さんを講師に,須走口の鳥たちが標高や環境によってどうすみ分けているのかを学びました.適した環境さえあれば標高2000mあたりでもヒバリがさえずっていることなど,ちょっとした雑学も交えながらお話しいただきました.

図.調査によって得られた結果の一部.鳥によって観察された標高が異なる. Photo by 川崎慎二(ルリビタキ),長嶋博之(キビタキ),浦島淳吉(ビンズイ),三木敏史(ヒガラ,ヤマガラ)

図.調査によって得られた結果の一部.鳥によって観察された標高が異なる. Photo by 川崎慎二(ルリビタキ),長嶋博之(キビタキ),浦島淳吉(ビンズイ),三木敏史(ヒガラ,ヤマガラ)

 翌朝は,未明から行動開始です!日の出前にいっせいに鳴きだす小鳥たちのさえずりを楽しんでもらった後,4時半から調査を開始しました.4名ずつ6班に分かれて,ふじあざみラインの上から下まで18か所でスポットセンサスを行ないました.スポットセンサスでは,調査者から一定の範囲内にいる鳥の数をかぞえます.そのため,鳴き声の主がどれくらいの距離にいるのか推定する必要があります.また複数の鳥が同時に鳴いている時は,何羽の鳥がいるのかも判断しなければいけません.ちょっと難しいところもあったかと思いますが,今回の体験が,観察から調査へ,一歩踏み出す機会になればと思います.
 3時間の調査を終えたら,次は調査結果のまとめです.主要な鳥について,どの標高で記録されたのか,各班から報告してもらい,その場でグラフを作っていきます.ルリビタキのように1700m以上でしか記録されない鳥がいる一方で,キビタキのように上から下までいる鳥もいました(図).小鳥たちのさえずりが活発な時間帯は朝に限られます.ひとりでは,1000mの標高差を一度に調査することはできませんが,みんなで調査すると1日だけの調査でも多くの発見があります.

写真2.梨ヶ原でバードウォッチング

写真2.梨ヶ原でバードウォッチング

 最後に梨ヶ原の自衛隊演習地でノビタキやホオアカ,コヨシキリなどの高原の鳥を観察して帰路につきました.
 今回の調査で,自分で調べて「わかる」ことの楽しさを感じてもらえたかな,という手応えが参加者から伝わってきたことが,何より嬉しかったです.今回は座学と現地実習を組み合わせた初めての試みでもあり,いたらぬところもあったかと思います.今回の経験を次に活かしていきたいと思います.天候が思わしくないなか,ご参加いただいた皆さまに感謝いたします.