「ムクドリなど,身近な普通の鳥が減っているという結果が出たんですよね」
先週まで全国各地をまわっていた全国鳥類繁殖分布調査の報告会でこの話をすると
「うちのまわりには,たくさんいるよ」「うるさいぐらいだよ」「増えている気がするな」
と信じられないという反応が返ってきます。
確かにムクドリは駅前などに集団ねぐらをつくり,糞害や騒音被害が話題になります。ぼくが鳥の仕事をしていることを知っている人から,質問や,はたまたクレームを受けたりすることもあります。確かに減っているイメージはありません。でも本当なんです。都市や住宅地を除けば…。
都市域で増えそれ以外で減少
2020年の完成を目指して2016年から行われている全国鳥類繁殖分布調査の調査結果のうち,1990年代とほぼ同じルートを調査できた記録を使って,1990年代と現在のムクドリの増減について比較してみました。2019年10月号の記事(植田 2019)でも増加している場所と減少している場所の地理的分布から,都市では減っていないかもしれないと書きましたが,今回は調査コースの周辺の環境をもとに解析してみました。調査コースに住宅や都市など人工用地が占める割合(住宅地率)とムクドリの増減の関係について解析したのです。
すると住宅地率が80%以上の都市ではムクドリは増加していたのに対し,住宅地率が60%を切る調査コースではその多くが減少していました(図1)。国土に占める都市の割合はわずかなので,今回ムクドリが記録されたコースのうち,住宅地率が80%以上のコースはわずか2%です。都市で見ているとムクドリは増えているように感じますが,日本全体で見れば,ムクドリは減っているということになります。
東京の都市部では街路樹が大きくなって,そこにできた洞でムクドリは繁殖しています。巣場所が増えたことで個体数が増えているのでしょうか? それともソメイヨシノのサクランボや街路樹につく虫など食物が増加しているのでしょうか? また逆に都市以外の場所で減っているのはなぜでしょう? 畑など開けた場所で採食しているイメージがありますが,農地の食物が減っているのでしょうか?
農地で減少しているスズメ
同様に農地への依存度が高そうで,ムクドリと似た環境に生息し,減少していることがわかっているスズメについても増減を見てみました。
調査コースに農地が占める割合(農地率)と個体数をみると,農地率の高いところほどスズメの記録羽数が多く(図2左),スズメの主要な生息地は農地のようです。ただ,スズメが大きく減少しているのもまた,農地の広い地域であることがわかります(図2右)。ムクドリもスズメほど明瞭ではありませんが,農地率の高いところで減少が見られました。逆に東京都繁殖分布調査では,スズメも都市部で増加し,郊外で減少する傾向が見られています(植田・佐藤 2017)。身近な鳥 2種で似た傾向が見られることは,やはり都市や農地に何か変化が起きているように思われます。
繁殖分布調査は鳥の分布状況を調べているだけなので,その増減の理由まではわかりませんが,農地については海外で気になる研究があります。ネオニコチノイド系の農薬で昆虫が大きく減少しており,それに伴い昆虫食の鳥もまた減少していることが示唆されたのです(Hallmann et al. 2014)。日本での状況はわかりませんが,農地率の高い場所でも大きく減少している調査地と変化のない調査地があるので,それらの状況を比べることで,農薬の影響があるのか,それとも別の原因なのかといったことがわかるかもしれません。来年,全国鳥類繁殖分布調査が完了したら,次のステップとしてそうした原因解明の調査もしていけたら,と思っています。
Hallmann et al. (2014) Declines in insectivorous birds are associated with high neonicotinoid concentrations. Nature 511: 341-343.