北米の鳥の個体数が1970年頃から29%も減少した(Rosenberg et al. 2019)という論文が様々なニュースで紹介されていたのをご覧になった方も多いのではないでしょうか?
日本ではどうなのでしょうか? 皆さんのご協力のもと,現在行なわれている全国鳥類繁殖分布調査のデータを見てみました。
日本の鳥も総個体数は減少
全国鳥類繁殖分布調査は1970年代,1990年代,そして今回は2020年の完成を目指して行なっている鳥の国勢調査です。1970年代の調査は分布情報だけで,個体数の記録が残っていませんので,1990年代とほぼ同じ調査コースで今回調査ができたルート同士をを比較することで,1990年代から現在にかけての鳥の数の変化を見てみました。
記録された鳥全ての数を合計した総個体数を1990年代のそれと比較すると,コース平均では,33.1±320.7(SD)羽 有意に減少していました。極めてばらつきの大きいデータですので,平均値はそれほどあてになりませんが,1990年代の平均個体数は203羽で,かなりの減少率になるので,詳細な解析をしつつ,その動向を探っていく必要がありそうです。
増減をヒストグラムにして見ると,目につくのは,数百羽以上といった極端な増減のほとんどが,減ったケースであることです(図1)。こうした大きな増減の内訳をみると,そのほとんどはコロニー性の水鳥の増減によるものでした。これまでのニュースレターでも紹介してきましたが,ゴイサギやアマサギ,コサギなどの小型のサギ類が減少していることがわかっていて(植田 2018),それが主な原因になっていました。また,分布が拡大しているカワウも多個体が集中している場所は少なくなり,中小規模の記録が多くなっていて,その影響もありました。
減っている身近な鳥
こうしたコロニー性の水鳥以外にどんな鳥が減っているのでしょうか? 全体の減少には個体数の多い「普通種」の動向が大きく影響を及ぼすと考えられるので,普通種に焦点をあてて,その増減を見てみました。対象は1990年代もしくは今回のいずれかの時点で個体数の上位20種に入っている鳥です。それらについて,有意な1羽以上の増減のある種を抽出してみると,減少の激しい順にゴイサギ,ドバト,スズメ,イワツバメ,ムクドリ,ツバメ,トビ,ハシボソガラスでした(表1)。増加していたのは,キビタキ,センダイムシクイ,ヤマガラでした。
減っている種は(トビは森にもいますが)開けたところに生息するという共通点があります。そして,増えている鳥は樹林に依存するという共通点がありました。ドバトは給餌がされなくなった影響が大きそうですが,それ以外の鳥の増減は,中山間地では耕作放棄などで畑などが荒れ地になり,平地では公園や街路樹などが大きく育ち,また河川敷も木が大きくなり樹林化していることなどで,樹林に依存する鳥には良い環境になり,開けた場所に住む鳥にとっては悪い状況になっていることを反映しているのかもしれません。
ムクドリは都市を除く平地で減少?
このなかで,一番意外に感じた種がムクドリでした。ぼくがフィールドにしている東京近郊ではムクドリは増えた印象があるのに,減っているという結果だったからです。ムクドリの数の変化を10羽以上増加(青),10羽以上減少(赤),それ以外の変化の小さい場所(オレンジ)に分けて地図に示してみると,自分の印象通り東京は増加傾向にあったのですが,それ以外の平地の多くでは減っていました(図2)。平地で増えている場所をみると,そこは仙台,名古屋,大阪などの都市でした。そして最近分布を拡げている西日本も低地で個体数の増えている場所が多くありました。また,丘陵地帯では大きな変化はないようでした。
なぜこのような違いが起きているのかはよくわかりません。最近は農地の食物が少なくなっていて,逆に都市域の公園では食物が豊富になっていたりするのでしょうか? たとえば公園の桜並木のさくらんぼとか…。もう少し細かく環境を見たり,各環境でのムクドリの行動を観察してみると,その原因が見えてくるかもしれません。今後の成果にご期待ください。
Rosenberg KV, Dokter AM, Blancher PJ, Sauer JR, Smith AC, Smith PA, Stanton JC, Panjabi A, Helft L, Parr M, Marra PP (2019) Decline of the North American avifauna. Science 10.1126/science.aaw1313.
植田睦之 (2018) 減ったアカハラ,ハシブトガラ….バードリサーチニュース2018年3月: 1.