バードリサーチニュース

大陸と近い日本列島で固有種が進化するプロセス ―カケスから見えてきたこと― ~研究者による論文解説~

バードリサーチニュース2018年11月: 2 【論文紹介】
著者:青木大輔

このシリーズでは毎回、研究者自身に、発表した英語論文について解説してもらいます。

 今回は青木大輔さんに解説してもらいます。青木さんは北海道大学大学院理学院自然史科学専攻の博士前期課程2年生で、高木昌興教授の研究室に所属しています。今回解説してもらう論文は、青木さんが学部生のころに行ったカケスの系統地理についての研究で、2018年にドイツ鳥学会が発行するJournal of Ornithologyに掲載されました。この論文では、狭い日本海を挟んだ日本と東アジアの大陸の間で鳥がどのように種分化するかに注目しています。

【加藤貴大 編】

紹介する論文: Aoki D, Kinoshita G, Kryukov AP, Nishiumi I, Lee SI, Suzuki H (2018). Quaternary-related genetic differentiation and parallel population dynamics of the Eurasian Jay (Garrulus glandarius) in the circum-Japan Sea region. Journal of Ornithology 159: 1087-1097.

 

日本の固有種と種分化

 みなさんにとって日本の固有種、と聞いてまず思いつく鳥は何でしょうか?ヤマドリ、アオゲラ、ルリカケス,アカコッコ,ノジコ・・・数えてみると案外多いな、いやいや他の国に比べれば少ないよ、いろんな意見があると思います。現在日本の固有種は全部で11種、日本でのみ繁殖する種を含めると17種が知られています。しかし、近年の目まぐるしいDNA解析の進展とともに、日本の鳥類の“本当の姿”を探る研究が少しずつ進んできています。今まで「種」は、主に形態の違いから判断されてきましたが、近年は行動や生態、そしてDNA情報の違いが注目されています。先行研究では、DNA情報に基づくと、同種だと思われていた日本列島とユーラシア大陸の多くの鳥で遺伝情報が大きく違っていることも分かっています。これをきっかけに、「実は日本には固有種が多数存在するかもしれない」と考えられるようになりました。

 祖先種から2種が生まれる「種分化」の過程の多くは、ある地理的障壁(川や海、山など)が集団を2つに分けること(①)から始まります。もし2つの集団間で個体の移動、すなわち遺伝子の交流が地理的障壁によって妨げられた状態で十分な時間が経過すれば(②)、2集団は独自に進化します。やがて2集団は別の種になる(種分化する)のです。固有種が多い土地、例えばハワイ諸島を思い浮かべてみましょう。このような大海の孤島には何らかの原因で大陸や大きな島から偶然やって来る以外、鳥が集団を作ることはありません(①)。その頻度は非常に低いため、一度集団を作れば元の大陸集団とは交流は断絶されます(②)。なるほど、大陸など鳥がたくさんいる土地から距離が離れれば種分化が起きやすく、固有種が多くなるのは当然

図1.北海道に生息する亜種ミヤマカケス.最終氷期後に大陸から北海道に渡って来た可能性が示唆された.

でしょう。しかし、日本は島国とは言え、日本海は狭く、九州は対馬海峡、北海道は宗谷海峡を挟んですぐ大陸です。なぜ狭い日本海を挟んで固有種(候補)がそれほどまで多いのでしょうか?この謎を解き明かすことは、日本の鳥類の進化がどのように起こったかを理解できるきっかけになるため非常に重要な課題です。また、大陸に近い島での鳥の進化には謎が多く、そのプロセスを垣間見られる可能性も秘めています。

 私はDNAを使って種分化のための道である①と②を日本の固有亜種で調べることにしました。これに適していたのが、カケス(Garrulus glandarius)でした。先行研究から、本州から九州に分布する亜種カケスG. g. japonicusは、ユーラシア北東部に分布する亜種ミヤマカケスG. g. brandtii (図1) や西ユーラシアに分布するG. g. glandariusとは、種に相当するDNA情報に違いがあることが分かっていました。また、カケスは海上を飛ぶことを嫌い、渡り途中でも海に来ると引き返す習性が知られています。陸地を介した移動が過去で推測しやすく、時代と共にカケスがどこを移動して来たかが分かりやすいわけです。

この記事は有料会員限定です。ログインすると続きをお読みいただけます。

入会・会員区分の変更