バードリサーチニュース

バードリサーチ設立15周年記念大会 開催報告

バードリサーチニュース2018年10月: 5 【活動報告】
著者:高木憲太郎

 バードリサーチ設立15周年記念大会を10月27日に東京海洋大学越中島キャンパスにおいて開催しました。前日の天気予報では午前中いっぱい雨の予報が出ていましたが、幸いにも朝一時的に振られたのみで済み、115名の方にお集まりいただきました。
 新進気鋭の若手研究者である東大の鈴木俊貴さんに基調講演をしていただいたほか、バードリサーチ賞の受賞講演2題、口頭発表4題、ポスター発表20題と盛りだくさんの内容となりました。また、展示ブースには鳥に関する書籍やアクセサリーを扱う4つのブース出展をいただきました。
 調査研究支援プロジェクトで2014~2016年度に支援した調査研究プランの中で特に優秀な成果を挙げたのでバードリサーチ賞の受賞者は、「大阪府域におけるサシバの生息情況調査」を実施されたサシバプロジェクトin大阪と「モズのはやにえは、早口で鳴くための貯食物?」を実施された西田有佑さんでした。両者には表彰状と共に株式会社モンベルよりご提供いただいた素敵な副賞を贈呈させていただきました。
 ポスター発表会場では、熱い議論がされていて、時間外にも話し足りないと言わんばかりにポスターを囲んでいる参加者もいました。懇親会も皆さん和気あいあいと、鳥や調査の話に花を咲かせていました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

それでは、講演・発表内容からいくつかご紹介します。

基調講演

鳥の鳴き声に単語や文法?シジュウカラ語・大研究!
鈴木俊貴(東京大学教養学部)

 鈴木さんは、シジュウカラやコガラなど、日本の森にふつうにいる鳥たちを対象に、観察と野外実験によって、彼らの音声コミュニケーションの研究をされています。巣立ちが近づいたシジュウカラのヒナが親の警戒声の違いによって、身を低く伏せたり(対カラス)、急いで飛び出したり(対ヘビ)することを明らかにした研究では、巣箱に仕掛けたカメラでヒナたちの行動を捉えていましたが、その動画は印象深いものでした。この時のシジュウカラの親が発した声は単一の声でしたが、今回の講演のメインは、さらに踏み込んだ研究です。
 鈴木さんは、野外での観察からシジュウカラが発する、「ピーツピ」という声には「警戒しろ」という意味があること、また「ヂヂヂヂ」という声には「集まれ」という意味があることを発見しました。そして、この2つの声を続けて発する場合、「警戒しながら近づけ」という意味を持ち、この声を聞いた周りのカラ類は、天敵の存在を探しながら集まります。ところが、鈴木さんが実験的に2つの声の順番を入れ替えて再生しても、同じ行動を誘発することはできませんでした。一つ一つの声の意味だけを伝えているのであれば、こうしたことは起こらないはずです。シジュウカラたちにとって、声の順序=文法に意味がある、という発見を実験的に示したのです。
 私たちが気づかない間に、鳥たちは一体どんなやり取りをしているのでしょうか?森で出会ったときに彼らを見る目も変わってくる、とても興味深い講演でした。

バードリサーチ賞受賞講演

大阪府域におけるサシバの生息状況調査 ―大阪府南部のサシバは40年前とどう変わったのか―
大西敏一(サシバプロジェクト in 大阪)

 サシバは里山に多く生息する鳥ですが、個体数が減少し、環境省のレッドリストでも絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。大阪府でも彼らの生息環境が減少し、個体数が減っています。そこで、40年前に繁殖状況が調べられていた地域を中心に、サシバの生息状況をたくさんのメンバーで手分けして実施しました。
 調査は1か所あたり最低4時間をかけるという精力的なもので、それにより大阪府南部地域のサシバの繁殖ペア数は40年間に1/4にまで減っていることがわかりました。特に減っていた環境は、アカマツ林や水田の割合が高い人里環境で、大阪府域のサシバは水田などが少ない山間部の植林地や採石場のような裸地に生息の場を見出していました。
 かつてサシバが狩の場として利用していた水田から離れた理由として、獣害対策のために張り巡らされるようになった電気柵の影響も考えられるのではないか、という話題も提供していただきました。

ポスター発表

モビング行動は捕食者の種類と地面温度によって変化する
西條未来・北村亘・沓掛展之

 西條さんたちは、集団で地面に営巣するコアジサシを対象に、コロニーに接近した外敵を排除するために行なうモビングについて調査しました。着目したのは、外敵の接近に対して常にモビングをするわけではない、ということと、親が巣を離れると陽ざしが直接卵にあたることによる高温リスクです。炎天下の夏の地面は50℃を超えるほど熱くなるため、抱卵していないと卵が高温になって死んでしまうのではないか、ということです。
 調査の結果、コアジサシはチョウゲンボウに対しては積極的にモビングに行くのに対して、カラス類に対してはあまりモビングをしないことがわかりました。さらに、地面温度が高い時はモビングにかける時間を短くしていることがわかりました。西條さんは、コアジサシにとって、チョウゲンボウの方がカラス類よりも捕食者として危険度が高いので、積極的にモビングを行なうと考察していました。しかし、長時間巣から離れると卵が死んでしまうリスクがあるため、地面温度が高い時はモビングの時間を短くしているようです。

 

 

 バードリサーチ大会は毎年開催しています。いつか、お住まいの近くで開催した時は、ぜひ、足を運んでいただけたらと思います。皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。

 

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