バードリサーチニュース

秋の渡りのサンショウクイ類

バードリサーチニュース2018年10月: 2 【活動報告】
著者:三上かつら

 サンショウクイプロジェクトでは,亜種サンショウクイと亜種リュウキュウサンショウクイについてデータを収集しています.みなさんの観察記録のおかげで,少しずつですが,いろいろなことがわかってきました.
 今回は,両亜種の秋の記録について,簡単にですが情報をまとめてみました.移動途中の個体の情報は,生息分布とは直接の関係がないのですが,秋の渡りについては,一般的なバードウォッチング中の記録にくわえ,長時間タカ類の渡りを観察されている方が報告をくださることがあり,サンショウクイの生態を知る手がかりとなる貴重な情報も多く含まれています.

渡り時期の早い亜種サンショウクイ

図1 亜種サンショウクイの観察報告地点の分布と例数(日数).2010-2018年の8-11月のデータ(2018年のみ9月末まで)を使用.

 亜種サンショウクイの渡りは,8月から既に始まっているようです(図1).観察される場所には,タカ類など秋の鳥の渡りを観察するのに適した,見晴らしのよい展望台や岬が含まれています.コメントもいただいているので引用しますと,8月上旬「確認出来ただけでも5-6羽の小群で先行種的に少しずつ南へ移動していました(京都)」8月後半「20-30羽で飛来(長野)」「多い時は100羽ぐらいが集結する(兵庫)」とあり,これらの群れが渡り途中であることがうかがえます.渡りのピークは9月前半といってよさそうです.そのあと10月まで続きますが,11月には亜種サンショウクイの報告はありませんでした.夏鳥のなかでは,比較的早い時期に秋の渡りのピークが来る鳥ですね.なお,ロシアの文献にも秋の渡りが早いことを示唆する記述があり,「7月18日鳴きながら,非常に高くを南へ飛ぶ6羽を観察した」「終認は10月17日」といった記述が出てきます(Panov 1993).

11月に多い亜種リュウキュウサンショウクイの秋の記録

図2 種リュウキュウサンショウクイの観察報告地点の分布と例数(日数). 2010-2018年の8-11月のデータ(2018年のみ9月末まで)を使用.グラフの色の薄い部分は伊豆市での例数.なお,九州や高知県などでは,亜種リュウキュウは留鳥として長く定着しており,いるのが当たり前になって,わざわざ報告されないことがほとんどなので,プロットがなくとも生息はしていると思われる.

 亜種リュウキュウサンショウクイは留鳥で,一部が漂鳥だろうと考えられています(三上・植田 2011など).伊豆市でタカ渡りを観察されている方からの情報は興味深いものでした.9月中旬に1-8羽の群れがみられていたのが,9月下旬から10月の頭には最多で90羽の群れが見られたとのことです(福田喜博 私信).漂鳥としての短距離移動でしょうか.それとも群れで渡ろうとしているのでしょうか? もう一つ面白いのは,11月に報告例が増えることです(図2).11月の報告をいただいた県(関東や静岡,兵庫,香川,徳島など)では越冬期(12月以降)にも記録があります.ひょっとしたらリュウキュウサンショウクイは11月には「ここを越冬地とする」と目星をつけて,そこで越冬するのかもしれません.今後注目したい点です.行動の面で面白いのは,亜種リュウキュウサンショウクイは,秋の移動途中らしき個体が亜種サンショウクイと行動をともにしている例があります.また,11月以降になると,メジロやカラ類と混群をつくり,一緒に行動することが珍しくないようです.

両亜種で異なる翼の形

図3 サンショウクイ2亜種の翼式.赤い数字は初列風切を外側から数えた数字,()内は標本の採集地.1番外側(P10)は2番目(P9)よりもずっと短い.

 せっかくみなさんに秋の情報もいただいているので,こちらからも面白い情報を提供できたらいいな,と思って,先日,山階鳥類研究所で標本を閲覧して翼式を調べてきました.わずかにバリエーションもみられましたが,亜種サンショウクイは外側から数えて34256 (図3の数字,専門的には,P8>P7>P9>P6>P5と書きます),亜種リュウキュウサンショウクイは34526(P8>P7>P6>P9>P5)という違いがありました.ただし,九州産亜種リュウキュウサンショウクイは3と4,2と5が同程度にもみえる,何とも微妙な長さです(図3).
 この翼の形状の違いで,野外で飛翔中の個体を亜種判定できないか,と思って色んな写真と見比べてみたのですが,撮影される角度によっては羽が長くも短くも見えてしまって判断が難しく,残念ながら簡単には使えない指標でした(たまにはネガティブなことも敢えて言う).ただ,亜種サンショウクイは亜種リュウキュウサンショウクイよりも翼長が5mm-1cm程度長く(Mikami 2016),とくに外側から3番目と4番目の初列風切が突出した尖った形の翼で,やはり飛行能力の高い渡りに向いた翼をもっているといえそうです.

 今回のレポートをご覧になった方で,手元にデータがある方,また「自分の印象と合ってた」「うちでは違う」といったご意見なども,是非ともお寄せくださいますとありがたいです.みなさんの力でサンショウクイの知識をどんどんアップデートしていけたらと思っています.よろしくお願いいたします.
 今回のレポートをまとめるため,サンショウクイプロジェクトにご参加いただた皆様のデータのうち,8~11月のものを使わせていたきました.ありがとうございました;イイジママリ,カントリーダイアリー,井浦勝美,井上,浦田美由貴,岡村和子,笠原里恵,梶川将,吉川芳子,吉谷将史,久野郁夫,原聖子,工藤一弘,紅林重光,黒木道子,坂野俊哉,三宅茂子,三田長久,山腰秀治,山中旅人,小宮朋子,新井清雄,森喬一葉,杉山,菅野萌,西岡博二,折口益巳,川口秀人,川瀬治郎,村田愛子,大坂英樹,谷本洋子,中原亨,中田健,中務貴雄,町田龍一郎,長瀬香,長嶋宏之,陳有,渡辺美郎,藤波不二雄,藤本愛,飯島智美,福田喜博,保田和昭,堀貴司,名前,木谷重信(代理登録者矢本賢),柳英浩,林春幸,鈴木雅章(順不同・敬称略).伊豆の詳しい情報を快く教えてくださった福田喜博さんに重ねてお礼を申し上げます.貴重な標本の閲覧・計測・撮影をさせてくださった山階鳥類研究所にも感謝を申し上げます.


引用文献
Mikami K (2016) Morphometric variation in the Pericrocotus minivets of northeast Asia. Ornithological Science 15: 23-28.
三上かつら・植田睦之(2011)西日本におけるリュウキュウサンショウクイの分布拡大. Bird Research 7: A33-A44
Panov EN (1973) The birds of Ussriland (fauna, biology, behaviour). Nauka, Novosibirsk. (原文はロシア語,和訳:極東鳥類研究会(1990)極東の鳥類7 南ウスリーの鳥類2.極東鳥類研究会,美唄)

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