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シジュウカラ,仲間の声から「ヘビ」をイメージ! ~研究者による論文解説~

Alarm calls evoke a visual search image of a predator in birds 【論文紹介】
著者:鈴木俊貴

 研究者とバードウォッチャーがより多くの情報を共有するため、英語論文を書いた研究者自身に、発表した論文について解説してもらいます。

 今回は、鈴木俊貴さんに論文を紹介してもらいます。鈴木さんは立教大学大学院の上田恵介教授(現名誉教授)の研究室でシジュウカラを対象にして研究を行い、博士号を取得しました。解説してもらう論文は、2018年に米国科学アカデミーが発行している英文誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America; PNASに掲載されました。この論文では、「鳥も人間がするように、頭の中にイメージ映像を描いているのだろうか?」という疑問に答えています。

【加藤貴大 編】

紹介する論文:Suzuki, T. N. (2018). Alarm calls evoke a visual search image of a predator in birds. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201718884.

 「リンゴ」と聞くと,赤くて丸い果物を頭に思い浮かべるように,会話のなかで物事をイメージする能力は私たちの意思疎通に欠かせません。また,このようなイメージ力は,私たちが文を読み,理解する上でも重要です。もちろん,他の動物たちも鳴き声やジェスチャーによって様々な意思疎通をおこないますが,音声から指示対象をイメージする能力は,長年にわたって人間に固有なものだと考えられてきました。ほかの動物の鳴き声は単なる感情のあらわれであり,環境中の対象物を指し示すことはできないと信じられてきたのです。

図1.シジュウカラは天敵のアオダイショウに遭遇すると特別な鳴き声(ジャージャー)を発しながら,仲間とともに追い払いにかかる。

 しかし,本当にそうでしょうか?私は10年以上にわたってシジュウカラ(学名Parus minor)の行動や生態を研究してきましたが,彼らの鳴き声は実に多種多様。仲間を呼ぶときは「ヂヂヂヂ」と鳴き,警戒を促す時は「ピーツピ」と発します。そして,天敵のヘビ(アオダイショウ)をみつけると「ジャージャージャー…」。しわがれた声で仲間を集め,果敢にヘビを追い払います(図1)。

 「ジャージャー」と聞こえる声は,ヘビ以外の天敵には決して発されることがないので,ヘビを示す単語であるかもしれません。もしそうであれば,私たちと同じように,シジュウカラも鳴き声からヘビをイメージできるでしょうか?私は今回,ちょっと工夫をこらした方法でこの疑問に迫ってみました。

 動物たちのイメージ力を,客観的に調べることは容易ではありません。人間を対象にすれば,MRI(核磁気共鳴画像法)を用いて脳内での神経活動に迫ることができますが,MRI装置の中でじっとしているのが困難な野生動物に対して,この手法を用いることは現段階では困難だからです。そこで本研究では,野外において認知科学的な実験をおこなうことで,シジュウカラのイメージ力に迫ってみることにしました。

 考えた実験方法は至ってシンプル。たとえば,AさんとBさんがハイキングにでかけたとします(図2)。Aさんは山道に黒いリュックが落ちていたのを発見。そのリュックを指差して「クマだ!」と言えば,Bさんはビックリしますよね。これは,Bさんが,黒いクマのイメージを黒いリュックに当てはめたからに他なりません。「これと同じ方法ならばシジュウカラにも使えそうだ!」と閃きました。

図2.認知実験の方法論。Aさんが「クマだ!」というと,Bさんは落ちているリュックを本物のクマと勘違い。黒いクマのイメージを黒いリュックに当てはめた結果。

 まず,森のなかでシジュウカラを探し,ヘビに対する「ジャージャー」をスピーカーから聞かせます。そして,20cmほどの小枝に紐をつけ,ヘビに見立てて動かします。もしシジュウカラが「ジャージャー」からヘビをイメージするのであれば,そのイメージを小枝に当てはめ,何らかの反応を示すかもしれません。シジュウカラが「ジャージャー」の再生音に近づいたタイミングで,紐を引っ張り,小枝をヘビのように木の幹に沿って下から上へと這わせます。

 予想は的中。シジュウカラは「ジャージャー」と聞くと,ヘビのように幹を這う小枝に近づいていきました。この反応は,実験したほぼすべてのシジュウカラ(11/12羽)において確認でき,どれも枝の1m以内に接近。「クマだ!」と聞いて黒いリュックに驚くように,「ジャージャー」と聞いたシジュウカラは木の幹を這い上がる小枝をヘビと見間違えたと考えられます。

 しかし,この結果だけでは,「ジャージャー」からヘビをイメージしたとは言えません。なぜなら,どんな鳴き声を聞いた場合であっても,小枝に近づくかもしれないからです。そこで,ヘビ以外の天敵に対して発せられる警戒の鳴き声(警戒声)や,単に仲間を集めるための鳴き声(集合声)を聞かせ,小枝を提示する実験もおこないました。合計24羽のシジュウカラに枝を提示したところ,いずれの音声を聞かせた場合も枝の動きにはほとんど接近しませんでした(警戒声:1/12羽,集合声:2/12羽)。

 ヘビは木の幹を這い上がるだけでなく,地面を這って進みます。シジュウカラが「ジャージャー」からヘビの探索イメージを思い起こすのならば,小枝が地面を這っていても,ヘビと見間違えて接近するはずです。そこで,小枝を地面の上を這わせて,シジュウカラの反応を確かめる実験もおこないました。またもや結果は予想通り。「ジャージャー」を聞かせた実験では,ほぼすべてのシジュウカラが小枝に接近(10/12羽)しましたが,ヘビ以外の天敵への警戒声を聞かせた実験では1羽も接近しませんでした(0/12羽)。

 それでは,枝の動きがヘビの動きに似ていない場合,シジュウカラはどのように反応するのでしょう。もし,「ジャージャー」と聞いたシジュウカラが,周囲の物体にヘビのイメージを当てはめてヘビを探しているのであれば,枝の動きがヘビに似ていない場合,反応は弱まるでしょう。木の枝を低木に固定し,紐を使って左右に揺らすことで,ヘビに似ていない枝の動きを作り出しました。すると,シジュウカラは,ヘビとは似ていない小枝の動きに対しては,ヘビに対する「ジャージャー」を聞いたときにも(1/12羽),ヘビ以外の天敵に対して発せられる警戒声を聞いたときにも(0/12羽),ほとんど近づきませんでした。つまり,「ジャージャー」を聞いたシジュウカラは,単に動く物体への好奇心が高まったというよりも,「ヘビに似た物体」への注意が喚起されたといえます。

図3.ヘビに対する「ジャージャー」を聞かせると,ヘビのように幹を這わせた小枝に接近する。ヘビのイメージを枝に当てはめて,本物のヘビだと勘違いした証拠。

 これらの結果から,シジュウカラは,目の前にヘビがいなくても,ヘビに対する特別な鳴き声から「ヘビ」の視覚イメージを脳内に想起し,それを目の前の物体に当てはめることでヘビを探索していたことが示されました(図3)。シジュウカラは,実際のヘビに遭遇すると,接近して翼や尾羽を広げて威嚇します。今回の研究では,木の枝への接近は確認されたものの,威嚇行動に発展することはありませんでした。十分に枝に接近したことにより,近づいた対象がヘビではないと気づいたためであると考えられます。

 本研究から,シジュウカラがヘビに対する特別な鳴き声からそのイメージを思い描き,ヘビを探していることがわかりました。これまでの研究でも,「ジャージャー」を聞くと,ヘビが這っていそうな地面や樹洞を探すような行動が観察されていたので,それとも整合性のある結果です(図4)。

図4.「ジャージャー」を聞いてヘビを探すシジュウカラ。

 従来,動物のコミュニケーションは話し手が聞き手の行動を機械的に操作する「命令」であると考えられてきましたが,シジュウカラの「ジャージャー」は,恐怖心の表れというよりは,まさに「ヘビ」を指し示す名詞であるといえそうです。サバンナモンキーやミーアキャットなど,天敵の種類に応じて警戒の鳴き声を使い分ける動物は他にも報告されています。これらが,天敵に対する恐怖心の違いによるものなのか,シジュウカラの鳴き声のように天敵を指示する名詞であるのかは,未だに明らかではありません。今後,他の動物に対しても本研究と同様の方法論を用いることで,鳴き声から指示対象をイメージする能力がどれだけ普遍的にみられるのか調べることができるでしょう。私たちが普段会話のなかで使っている認知能力は,実は動物のコミュニケーションにおいても広く進化しているのかもしれません。

 

著者紹介

鈴木俊貴 博士(理学)

総合研究大学院大学 先導科学研究科

専門は動物行動学。鳥類を対象に,シジュウカラとその仲間を対象に,鳴き声の意味を研究中。