バードリサーチニュース

砂浜のシロチドリを襲うのは? 離島だけではないネコ問題

バードリサーチニュース2017年8月: 5 【活動報告】
著者:守屋年史

写真1 シロチドリの営巣保護柵

 砂浜で調査をしていると、多くの人に出会います。漁師さん、散歩する人、サーファー、海水浴客などなど目的はそれぞれですが、海の近くは人を寄せるものがありますね。

 さて、シロチドリに寄せられて砂浜で調査している私たちは、今年の3月下旬から始まった千葉県九十九里の砂浜での繁殖状況の調査を8月初旬をもって終了しました。今年度は、4月28日に営巣を初確認し、最終的に37ペアを追跡、17ペアのふ化成功を確認(推測も含む)しました。また今年は繁殖状況の調査と並行して、8つの巣に試験的に営巣保護柵を設置し、その効果を確かめてみました(写真1)。営巣保護柵の効果、確認された捕食者について報告します。

営巣保護柵の効果

表1 孵化の成否と失敗の要因 

 営巣保護柵は、60cm×60cm×高さ45cmで、約4.5cm枠のメッシュになっています。ネコやカラスなどは通過できませんが、シロチドリはメッシュをくぐって出入りができます。今年は営巣保護柵を設置した8巣のうち6巣でふ化を確認することができ、保護柵を使用した巣では75.0%のふ化成功となりました。一方、使用していない巣については37.9%となり、全体では45.9%の孵化成功となりました。昨年は16.1%、一昨年は38.5%だったので、保護柵により捕食を抑えることができた効果の分、ふ化成功率は改善できていると考えられます。

 ただ、保護柵ありの場合でも2巣の失敗があり、物理的に天敵から隔離する効果は高いものの営巣放棄を誘発することがありました。設置のタイミングやモニタリングなど運用に際しての注意をまとめておく必要があります。

夜の天敵は誰?

 また、今年のテーマの一つとして、夜中のシロチドリ抱卵中の捕食者を特定しようと試みていました。これまでも、観察結果やモニタリングカメラからカラスが巣を襲う様子や卵を運ぶ様子が観察されており、日中の捕食者は確認していたのですが、夜間に関してはどんな捕食者がいるのかわかっていませんでした。今年は、コンサベーション・アライアンス・ジャパンから助成金を受けることができたため、ノーグロータイプ(赤外線ライトの発光が目立たない)の赤外線のセンサーカメラを購入して、昼夜を通してモニタリングをすることができました。

 モニタリングカメラを確認するとシロチドリの巣には、ヒトや飼い犬、カラス、ネコがやってきたり、脇を移動していました(写真2,3,4,5)。特に夜間はネコがよく撮影されており、今年の調査では夜間はネコ以外は確認できませんでした。ネコは日中はほとんど見かけないのですが、砂浜の後背には人家があり、普段その周辺で生息しているネコが夜間は砂浜までやってきているようでした。

写真3 ハシブトガラス

写真2 ヒト

写真5 ネコ

写真4 散歩するヒトとイヌ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間のネコによる捕食

写真6 No.17Kid08の巣を襲うネコ

図1 No.17Kid08の巣内外温度 矢印は、6/28 00:10ごろ 急速に巣内の温度が低下。

 2017年6月28日深夜00:11:29に、No.17Kid08と呼んでいた巣にのぞき込むように顔を向けているネコ(写真6)が撮影されました。その後、巣の周辺で行き来するシロチドリの親鳥がしばらく撮影されています。巣内に設置した温度計を確認すると、ネコが巣に近づいた後から親鳥による抱卵が中断され巣内の温度は急速に低下しました(図1)。また翌日に私たちが確認した時点では卵は失われていたため、ネコによって卵が捕食されたと推測されました。シロチドリの夜の捕食者はネコが多いのだと思われます。

 ネコは愛玩動物としては可愛いのですが、野外では強力な捕食者となります。アメリカでは、ネコ(主に飼い主がいない半野生化したネコ)が毎年、最高で40億羽の鳥と223億匹の小動物を殺していると推計した研究結果が報告されています(Loss et al. 2013)。日本国内でもネコが生態系に与える影響が問題になってきています。島嶼に生息するヤンバルクイナやオオミズナギドリなどへのノネコの影響は極めて深刻です。本州では、シロチドリと同様に砂浜や開放地で繁殖するコアジサシでも、ネコの被害が報告されています(林 2005)。このような現状から、環境省と農林水産省が今年3月26日に作成した「我が国の生態系等に影響を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」には、ノネコも含まれています。現在、国内でノネコはまん延期にあると考えられ、早急な対応が必要とされています。

 また、ノネコも問題ですが、室外を出歩くイエネコも野鳥への影響が懸念されています。小笠原では、自然保護のため飼いネコ適正飼養条例が制定され管理を義務付けています。今回は九十九里浜のこのネコが、ノネコか室内飼育されていないイエネコかはわかりませんが、シロチドリの個体数の減少の要因の一つになっていると考えられ、早急に対策を行っていく必要があると考えられます。

 

 おりしも今年の日本鳥学会公開シンポジウムは、『生態学者 vs 外来生物 本気で根絶,本気で再生 奄美・沖縄・小笠原』(筑波大学 春日講堂 9月18日9:30:https://osj2017symposium.jimdo.com/)が企画されており、ノネコの問題も扱われるようです。実際には人による愛玩動物の飼育問題で、私たちにも身近な問題です。ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。

参考文献

環境省. 2017.「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」の公表について(お知らせ). 報道発表資料 2017年3月26日.

林英子, 早川雅晴, 佐藤達夫, 増田直也. 2005. 屋上営巣誘致に成功したコアジサシの繁殖状況について. Strix Vol. 23, pp. 143-148.

Loss, S. R., Will, T. & Marra, P. P.. 2013. The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States. Nature Communications 4, Article number:1396.

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