バードリサーチニュース

九十九里浜のシロチドリの行き先は?

バードリサーチニュース2016年10月: 3 【活動報告】
著者:守屋年史
図 確認された越冬地

図.九十九里浜で放鳥されたシロチドリが非繁殖期に確認された場所

 シロチドリの生息圏全体を考えた保全をすすめるため、九十九里浜で繁殖しているシロチドリがどこで越冬しているか、カラーリング付きのシロチドリの観察情報を集めて調査しています。昨年の繁殖期(4月~ 7月)に九十九里浜で35個体のシロチドリにカラーリングと環境省のリングを装着し放鳥しました。非繁殖期(8月~1月)には、18個体の観察回収があり、南は鹿児島から、三重県、東京湾内、北は宮城などから写真とともに報告を寄せていただきました(図)。ありがとうございました。また冬の間、そのまま九十九里浜に留まった個体も観察されています。ただ、南西諸島やアジアなどの国外からの報告はありませんでした。そして、今春の繁殖期に九十九里浜の調査地周辺で再観察された標識個体は、11個体が観察され帰還率は約31.4%となりました。

低い帰還率の理由

シロチドリの「黒黒」(右)とつがいのメス

写真1.シロチドリの「黒黒」(右)とつがいのメス

 アラブ首長国連邦や西ドイツの過去の研究事例では、繁殖地への帰還率(Breeding site fidelity)は高く、それぞれ65.9%と59.3%と報告されています。ただ、アラブ首長国連邦のAl Wathba Wetland 保護区では、周囲が砂漠に囲まれているため繁殖できる場所も限られているという事情もあるようです。我々は、九十九里浜の一部を週に一回しか定期的に見ることができていないので、周辺に分散されると見つけにくくなって見落としている可能性もあります。というのも今年は、昨年のメインの調査地があった繁殖地周辺では、シロチドリの営巣数があまり多くなく、離れた場所で繁殖した可能性があるからです。実際に離れた場所で繁殖した事例として、脚に付けた二つのカラーリングが黒色の「黒黒」という♂が、昨年放した場所から約16km離れた場所で今年営巣していました(写真1)。この個体は我々がコアジサシコロニーを探しているときに、今年繁殖がうまくいったコアジサシのコロニーの近くで抱卵しているのを偶然発見することができました。確認したのは6月9日と繁殖期も終盤でしたので、今春の再営巣の際にコアジサシについていったのかもしれません。状況に応じて好適な繁殖場所を求めて移動することもあるようです。

日本の亜種は?

沖縄のシロチドリ(2016年6月12日)Photo by 奴賀俊光

写真2.沖縄のシロチドリ 上面がやや淡色で額、過眼線、胸が淡い傾向がある.(2016年6月12日)Photo by 奴賀俊光

 今回の調査では南西諸島や国外からの報告はなかったのですが、長年のバンディングによる標識調査でも九州以北で標識されたシロチドリが南西諸島や国外で記録されたことはないとのことです(山階鳥類研究所、茂田良光氏 私信)。国外との交流があまり確認されてないにも関わらず、現在の日本の亜種は、台湾や韓国と同様の亜種 ( Charadrius alexandrinus dealbatus )とされています。しかし近年dealbatus は、中国南部、マレーシア、タイに生息する別種のカオジロシロチドリとして報告され(Kennerley et al. 2008)、dealbatus がシロチドリですらない可能性があります。日本の本州で繁殖する亜種は果たしてどの亜種なのか、南西諸島で繁殖している個体(写真2)や、台湾や韓国の個体との遺伝学的な調査や比較・検討により整理する必要があると考えられます。ゆくゆくは沖縄にも遠征できたらと考えています。

越冬期の情報をお待ちしています。

 さて今年も、カラーリング付きのシロチドリの観察情報を集めています。これからの季節、干潟や砂浜などでシロチドリがいましたら、脚元に注意していただけたらと思います。よろしくお願いします。

シロチドリ標識調査 ホームページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/shiro_chidori/shirochi_mark.html

参考文献
Kennerley, Peter R., Bakewell, David N. & Round, Philip D.(2008) Rediscovery of a long-lost Charadrius plover from South-East Asia. Forktail. 24: 63–79.

Kosztolányi, A., Javed, S., Küpper, C., Cuthill, I.C., Al Shamsi, A.& Székely, T. (2009) Breeding ecology of Kentish plover Charadrius alexandrinus in an extremely hot environment. Bird Study, 56, pp. 244–252.

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