先日,多摩川へ「全国鳥類繁殖分布調査」の調査コースの下見に行ってきました。河原を歩いていると,つかつかとコチドリがぼくの前に。偽傷を始めました。どこかにコチドリの巣があるのでしょう。卵を踏まないように足元に気を付けつつ進みましたが,カモフラージュされた彼らの卵を見つける自信はないので,河原を迂回して,先に進むことにしました。
このように,チドリ類の卵は捕食者にみつからないよう,よくカモフラージュされています。しかしコスタリカなど南の地域で繁殖するウィルソンチドリ Charadrius wilsonia の卵はほかのチドリほどカモフラージュされていないそうです。なぜなのでしょう? スペインのGómezさんたちの調査と実験から,暑さがカモフラージュを妨げているのではないかという可能性が見えてきました。
Gómezさんたちは,まず,コスタリカのウイルソンチドリとスペインのシロチドリの巣を撮影し,画像解析からカモフラージュ度合いを調べました。するとシロチドリの卵の方がよくカモフラージュされていていることがわかりました。そしてそれには,シロチドリの方が卵の「地の色」が濃いことが影響していました。同様のことはコスタリカのクロエリセイタカシギ Himantopus mexicanus とスペインのセイタカシギでも言えました。
ウイルソンチドリは白い地に濃い斑点のある卵をしているのですが,なぜ,目立ちやすい白い卵を産むのでしょうか? 温度計を仕込んだウズラの卵を使って,卵の温度を計測する実験をしたところ,コスタリカの方が陽にさらされた時に,卵が高温になってしまうことがわかりました。さらに,地色の濃い卵ほど卵が高温になることもわかりました。Gómezさんたちは暑いコスタリカでは濃い地色の卵は気候的に不利なので,カモフラージュ度合いを犠牲にしても,白っぽい卵を産むのではないかと考えています。
チドリでもセイタカシギでも同じ傾向があったので「そうなのかな」とも思うのですが,種も違えば,スペインとコスタリカと地域的にもずいぶん離れているので,Gómezさんの仮説が正しいのかには疑問も残ります。
シロチドリは日本でも北は北海道から南は沖縄まで分布していて,場所による温度や日射の違いはかなりありそうです。これらの地域間で卵の地の色に差があるのでしょうか? また時期によっても温度は変わりますが,遅い時期に繁殖する鳥の方が白い卵を産んだりするのでしょうか? そういったことがわかってくると,この温度仮説に説得力がでてくるように思いました。