バードリサーチでは、近畿地方を中心とした府県市の連合体である関西広域連合から委託を受けてカワウの生息状況の調査を実施しています。滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、徳島の6府県の100か所以上のねぐらやコロニーで個体数や営巣数を調べ、その変化をモニタリングするのが目的です。
高圧線のねぐらなどは真っ暗になってからでも個体数を数えられますが、林のねぐらでは正しくカウントすることができません。そこで、日没の2時間ぐらい前にすでにねぐら入りしている個体数を数えておき、その後に帰還する個体数を方位別に数えて足す方法をとっています。その結果、副次的に帰還方向のデータが得られます。せっかく得られているものなので、何かに活かせないかと思い、関西広域連合に許可をもらい過去4年分のデータを分析してみましたのでご報告します。
季節によって食べる場所を変えるカワウ
カワウは主に魚を食べますが、食べやすい魚のいる場所は季節によって変化します。そのため、カワウも食べものを求めて移動します。関西広域連合によるカワウのねぐらの調査では、いくつかの大きな河川で、冬は沿岸部で夏は内陸部で個体数が多くなる傾向があります(図1)。
帰還方向のデータを活かした分析
このカワウの採食場所の季節変化を、帰還方向のデータから読み取れないか、というのが今回の分析の狙いです。カワウの冬の食物のひとつに汽水域に生息するボラがあります。この魚は4才以上の成魚になると冬に外洋に出て産卵するそうですが、3才以下の未成魚は河口や沿岸の浅瀬に留まるようです。私は冬や春先に大きな河川の河口部で、この魚を食べているのではないかと思うカワウの群れを観察したことがあります。そこで、内陸河川と、河口部&沿岸部の間で、採食場所の季節的な切り替わりが捉えられるのではないかと考えました。
そこで、関西広域連合によって2018年以降に調査された瀬戸内海沿岸のカワウのねぐらのうち、比較的大きな河川の河口付近(ただし、河口より少しだけ内陸側)に位置するねぐらを対象とすることにしました。帰還方向のデータは条件によって得られる場合と得られない場合があります。8方位の帰還個体数の合計が10羽以下だったデータは除外し、夏と冬について、十分な帰還方向データが得られるねぐらのみをピックアップすると、5か所のねぐらが候補に残りました(図2 上)。これらのねぐらについて、8方位の帰還個体数データから、海側3方位、上流側3方位の帰還個体数を合算して夏と冬の値を比較しました(図2 下)。
夏は内陸で冬は沿岸で採食する瀬戸内海のカワウ
分析の結果、相対的に冬よりも夏になると内陸から帰還する個体の割合が増える傾向が見られました(図3)。これは、春に遡上してくるアユや、内水面漁協によるアユの種苗放流によって内陸河川の魚が増えること、冬の間岩のすき間や落葉の間に隠れて動かずにいる川魚の活動性が高まりカワウにとって採食しやすくなるからではないかと思います。
割合ではなく帰還個体数についてみてみると、夏に川で採食するカワウが増えるだけでなく、瀬戸内海で採食するカワウが冬から夏にかけて減ることも大きく影響していました(図4)。これは、河口部や沿岸部の浅瀬にいるボラが川を遡って少し上流側に移ることなどによりカワウにとって採食しやすい魚が減るからだと思われます。瀬戸内海に近い琵琶湖では夏になると数万羽という単位で個体数が増えるので、採食場所を沿岸部から内陸に切り替えるカワウだけでなく、琵琶湖など離れた地域に移るカワウもいると思われます。
新しく別の調査を行なわなくても、カワウの採食場所の傾向を捉えることができるということは、カワウによる漁業被害を減らすための手立てを考える際の参考になります。カワウを殺す以外の方法で被害を減らす提案をしていくことに活かせたらと考えています。
なお、和歌山県の六十谷橋では、他のねぐらほどはっきりした傾向が得られませんでした。このねぐらでは、調査開始時にすでにねぐら入りしている個体が多く、他のねぐらより記録された帰還個体数が少なくかつ、調査ごとに内陸と沿岸の一方のみからの帰還しか捉えられていなかったためでした。こうした場合だけでなく、休息場所の位置が帰還方向に影響を与えてしまう場合があります。例えば、魚が豊富だとカワウたちは早い時間に採食を終えてしまい、夕方には中州などに集まって休息し、日没頃に一斉にねぐらに向かうこともあります。
謝辞
この調査には、会員の方にも多数ご協力いただいています。年3回の調査はいつも暑い日か寒い日で、ほとんどカワウがいないねぐらを調査していただくこともあります。お名前はご紹介できませんが、ご協力に心より感謝いたします。