まもなく立春です。寒い日が続きますが,春は着実に近づいてきています。皆さんの家のまわりでも,来たる繁殖期に備えてムクドリが戸袋などの巣穴をめぐって争っている声が聞かれたりするのではないでしょうか?
このように,巣穴は限られた貴重な資源なので,同種間・異種間で奪い合いが起きます。そして, 巣穴を獲得できないと繁殖ができなくなってしまいます。こうした巣穴をめぐる直接的な争いだけでなく,海鳥のコロニーでは,巣穴のそばに他種が繁殖することも,同様な影響をもたらしてるようです。
矢萩樹・猿舘聡太郎・松井晋 (2023) 近接して営巣する海鳥の干渉によるケイマフリの繁殖阻害.Bird Research 19: A1-A9.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.19.A1
矢萩さんたちは北海道積丹半島の窓岩という小さな岩で繁殖しているケイマフリを2019年から調査しています。毎年,この岩に渡来するケイマフリの数は36-38個体とほぼ一定なのですが,2021年にはそれまでの6巣から2巣に繁殖数が急減したことがわかりました。その年は,ケイマフリの営巣場所とウミウの営巣場所が重複し,ウミウの巣材で巣穴が塞がれたり,近くで営巣することにより,巣穴に接近しようとするケイマフリがウミウに追い払われたりしており,それが原因で繁殖できなかったと考えられました。
天売島のような大きな海鳥繁殖地では,営巣資源もたくさんあるので,海鳥たちは営巣場所を変えることでうまくすみ分けているそうで,他種の影響は小さいようですが,窓岩のような小さな繁殖地ではこのようなことが起きるのではと矢萩さんたちは考えています。
全国鳥類繁殖分布調査(植田・植村 2021)でも,海鳥類のコロニーが分散して小規模化している様子が見えています。そうした小規模なコロニーが増えてくると巣場所をめぐる競争で,相対的に弱い種の繁殖成績の低下が起きるのかもしれません。そうしたことも気にしながら今後の分布や個体数の変化を見ていきたいと思います。