バードリサーチニュース

台風がジョウビタキの渡りを遅くする?

バードリサーチニュース 2022年11月: 3 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ)・太田佳似(日本気象予報士会関西支部)

ツグミ(左)とジョウビタキ(右).撮影:三木敏史

 皆さんのまわりでツグミは見られるようになりましたか? 季節前線ウォッチには,9月30日に最初の記録が届き「今年は早いかも」と思っていたのですが,バードリサーチ事務所の周辺で見られたのは,例年より遅めの11月19日でした。春の初認やさえずりのピークについては,気温が影響していて,ある程度渡り時期を予測できそうですが(太田・植田 2020植田・堀田 2022),秋の渡りではどうなんでしょう?
 季節前線ウォッチの対象種で,全国からたくさんの情報が集まっているジョウビタキとツグミを比較すると,その渡りパターンの違いや,ジョウビタキについてはその渡りを阻む気象要因が少し見えてきたのでご報告します。

 

ジョウビタキとツグミの違い

図1 ジョウビタキとツグミの初認のピーク時期とその年変動。25-75パーセンタイルの範囲(長方形:渡りのピーク期間を示す)と中央値(長方形の中央の線)を示した。2022年のツグミは,現時点でまだ渡りが続いているために示していない。

 まず,たくさんの情報を得られている2012年以降の 2種の初認状況を見てみます。渡りのピークを初認の中央値と25-75パーセンタイル(初認の中央の50%が入る範囲)で示してみました(図1)。これでわかることとしては,ジョウビタキが割と短い期間にどっと渡ってきて,年変動も小さいことです。渡りのピークの期間がジョウビタキでは8.1±1.5日間と短いのに対して,ツグミは17.0±4.4日間と長く渡りが続くのです。また,渡りのピーク日にあたる中央値もジョウビタキは年による違いが小さく,10月20-24日の短い期間にほぼ収まっている(ただし2013年と2017年は10月27日と大きく外れていた)のに対し,ツグミは,11月3日から20日まで大きくばらついていました。
 ジョウビタキは越冬地でもなわばりを構える習性があるため,良いなわばりを構えるために,急ぎ渡ってくるのに対して,ツグミは木の実のある所に立ち寄りながら徐々に南下してくるために,このような渡りパターンに違いが生じるだと想像しています。冬になわばりを持つ種は少ないので,なかなか種間比較で,この仮説を検証することは難しいですが,「フィールドノート」や「食性データベース」の情報の蓄積が進めば,「果実食の鳥は渡り時期が年により違う」など渡りパターンと食性に関係があるのなら,それは検証できるかもしれませんね。

台風がジョウビタキの渡りに影響?

図2 本土部への台風の接近数と降水量の年変動。接近数は台風の中心が気象観測所の300km以内に接近した数。降水量は本州・四国・九州の110か所の気象台の降水量の合計値。

 こんな規則正しい渡りをするジョウビタキですが,2013年と2017年は普段の年とは違い渡りの時期が遅れました。これらの年に何が起きていたのか知ることで,ジョウビタキの渡りの阻害要素が見えてきそうです。
 秋で渡りの阻害要素となりそうなものとしては,台風が思いつきます。2013年はジョウビタキが渡来する10月に台風が多く接近した年でした。死者40人を出した大きな台風26号の後にも27,28号が次々と接近しました(図2)。2017年も2つの台風が接近しましたが,2つの台風が接近した年は,2017年以外にも,2014年,2018年,2019年がありました。そこで台風の影響度合いの指標として,10月下旬の本州・四国・九州の110か所の気象台の降水量の合計値も見てみました。2017年は降水量が31,700mmと多く,やはり全国的な台風の影響が大きい年だったと言えます。また,2019年も台風が2つ接近して,降水量も2017年,2013年に次いで多い年でした。この年は渡りのピークこそ10月22日と平年並みでしたが,ピーク期間が11日と,これまでで最も渡り期間の長い年でした。また,10月25-31日のあいだに最も多くの初認が記録されるなど,遅くまで渡りが続きました。それを考えると,この年もやはり,ジョウビタキは台風の影響を受け,渡るのが遅くまでかかったと言えそうです。

 では,ツグミの渡り時期に影響する要因は何なのでしょうか? 山の木の実が豊作の年に,なかなか平地に降りてこなかった事例はあるのですが(植田 2011),いつもそうかというとそういうこともなく,影響の仕組みは単純ではなさそうです。季節前線ウォッチで記録を蓄積して,いろいろな要素をあわせて考えることで将来明らかにできたら,と思います。