バードリサーチニュース

フランスで越冬する沿岸性シギ類の動向

バードリサーチニュース2015年8月: 5 【論文紹介】
著者:菊地有子・守屋年史

 日本を含めた東アジア-オーストラリア地域フライウェイでは,渡り性水鳥の減少が懸念されていますが,東大西洋フライウェイに含まれるフランスでは,長期間のモニタリングによって異なる事情がみえてきました.今回は,会員の菊地有子さんに翻訳していただいたフランスで越冬する沿岸性シギ類の動向についての論文をご紹介します.

◯フランスはシギ類の重要な越冬地

 フランスを含むヨーロッパ地域沿岸では,ウェットランド・インターナショナルによって越冬するシギ類のカウント調査が実施されています.調査は毎年1月中旬,1977年から継続的に行われています.これらの調査によって,ヨーロッパでは,フランスがオランダ,イギリスに次いでシギ類の重要な越冬地であることがわかってきています.特に,オグロシギ,ソリハシセイタカシギ,ハジロコチドリ,ダイゼン,ミユビシギ,ハマシギ,コオバシギなどの主要な越冬地となっています.また,水鳥が利用するフランス国内の多くの湿地がラムサール条約の登録基準を満たしています.

◯ほとんどのシギ類が増加傾向

図1 調査地(フランスの沿岸3地域)

図1 調査地(フランスの沿岸3地域)

 論文では,1980~2013年に行なわれた調査をもとに,沿岸性シギ類18種の動向を論じています.各種の増減傾向を明らかにするとともに,フランス沿岸部57サイトのデータを英仏海峡-北海,大西洋,地中海の3つの沿岸地域ごとにまとめ,それぞれの地域の動向を検討しています(図1).

 結果からいうと,1980年以降のフランスでは,エリマキシギ,ミヤコドリを除き,ほとんどのシギ類はかなり増加していました(図2).最も増加しているのはミユビシギ,アオアシシギ,ツルシギ,キョウジョシギです.またソリハシセイタカシギ,シロチドリ,コオバシギ,アカアシシギも継続的な増加傾向を示しています.2000年以降は多くの種で増加傾向が緩やかになっており,ハジロコチドリ,ダイゼン,ムラサキハマシギはほぼ増加も減少もしておらず,ミヤコドリ,ハマシギ,ヨーロッパトウネンは減少しています.一方オグロシギ,ダイシャクシギの2種については,2000年以降に激増していました.

1980~2013年の沿岸性シギ類の増減傾向.縦軸は個体数の指標値(2008年を100として示している.個体数そのものではない).指標値と95%信頼区間を示す.特に増加傾向が顕著なものは青字で年変化率(p.a.)を示した.また2000年以降減少しているミヤコドリ,ハマシギ,ヨーロッパトウネンについては赤字で2000年以降の減少率を示した.

1980~2013年の沿岸性シギ類の増減傾向.縦軸は個体数の指標値(2008年を100として示している.個体数そのものではない).指標値と95%信頼区間を示す.特に増加傾向が顕著なものは青字で年変化率(p.a.)を示した.また2000年以降減少しているミヤコドリ,ハマシギ,ヨーロッパトウネンについては赤字で2000年以降の減少率を示した.

 沿岸域別では,大西洋沿岸で最も増加傾向が顕著で(図3),オグロシギ,アオアシシギ,キョウジョシギ,コオバシギ,オオソリハシシギが特に増加していました.英仏海峡-北海沿岸では,ソリハシセイタカシギとハマシギがかなり減少しており,また全体的な総数は近年横ばいとなっています.地中海沿岸は,上記2つの地域よりも個体数が少ないのですが,アカアシシギを除き,全体的に緩やかに増加していました.大西洋沿岸にはフランスで越冬するシギ類の66%が集中するため,この地域の動向に国内全体の動向が影響を受けているようです.

図3.1980~2013年の地域別の増減傾向.縦軸は個体数の指標値(フランス全体の2008年を100として示している.個体数そのものではない).

図3.1980~2013年の地域別の増減傾向.縦軸は個体数の指標値(フランス全体の2008年を100として示している.個体数そのものではない).

◯シギが住みやすくなったフランス

 長期間の動向では,フランス国内はフライウェイの動向よりポジティブな状況にあります.特に,シロチドリ,ミユビシギ,ムラサキハマシギ,ツルシギ,キョウジョシギは,フライウェイ全体の増加よりも大きな増加傾向を示しています.これらの要因として,フランス沿岸部での越冬環境の改善があげられています.1970年以降,自然保護区,海域の狩猟鳥獣保護区,ビオトープなどの保護条例等が充実し,生息地としての受け入れ能力が良好になっていると考えられます.論文では,フライウェイと同様の増減傾向を示している種,特に減少している種に関しては,フランス国内だけで要因や対策を考えるのではなく,全体的な要因の探索が必要で,グローバルな繁殖地や越冬地に関する調査が必要であると述べられています.西ヨーロッパについては比較的調査研究が進んでいますが,アフリカの保護の状況はよくわかっていないため,現在そのための国際プログラムを実施中ということです.

 日本もシギ・チドリ類の長期モニタリングを実施しています.日本の動向と,東アジア-オーストラリア地域のフライウェイ全体での動向を比較することで,シギ・チドリ類各種の増減の要因を知る手がかりが得られるかもしれません.特に減っている種については,国内はもとより国外の減少要因についても積極的に調査を行っていく必要があります.

 

◯引用文献

Quaintenne, G., Dubois, P. J., Deceuninck, B., Mahéo R. 2015. Limicoles côtiers hivernant en France : tendances des stationnements (1980-2013). [Coastal waders wintering in France, trends 1980-2013.] Ornithos. 22 (2): 57-71.