バードリサーチニュース

生態図鑑(要約版) キビタキ

バードリサーチニュース2015年6月: 5 【生態図鑑】
著者:岡久雄二(自然環境研究センター)

キビタキのオス.Photo by 小野安行

○英名: Narcissus Flycatcher 
  学名: Ficedula narcissina
○分類: スズメ目 ヒタキ科

○羽色
 亜種キビタキF. n. narcissina のオスは頭上から背,尾羽,翼羽が純黒色であり,雨覆と三列風切に白色斑を持つ.腰は黄色.喉から腹にかけては橙黄色から黄色であり,下尾筒周辺は多くの個体で白色.メスは上面が茶褐色であり,体下面は汚白色から淡褐色.第一回夏羽の若鳥では摩耗した旧羽が混じることで雄雌ともに齢を査定できる.
 亜種リュウキュウキビタキF. n. owstoni のオスは喉が赤みのない黄色であり,上面が緑色がかる.メスも上面の緑色みが強い傾向にある.

○生息環境
 亜種キビタキは標高1800m以下の落葉広葉樹林,針広混交林,常緑針葉樹林,照葉樹林,カラマツ林,農耕地,住宅地,モウソウチク林など,多様な環境で繁殖する.渡りの途中には都市公園で観察されることも多い.亜種リュウキュウキビタキは広葉樹林帯,照葉樹林やマングローブ林に生息する.

○巣の位置,形と材質,大きさ
 キツツキの古巣,自然樹洞,折れた木や枝の先端,枝の基部のくぼみ,折れた竹,廃屋の屋根など,さまざまな場所に営巣する.巣の高さは0.5m~20mまで様々である.巣箱は前面を広く開けたものやシジュウカラ用のものなどを利用する.
 巣材は主に落ち葉,コケ,樹皮,植物の繊維,根状菌糸束,動物の毛を利用してカップ型の巣をつくる.落ち葉を敷き詰めた上に産座を造るのが一般的だが,落ち葉ではなくコケばかりを敷き詰める個体もある.産座は直径6.50±0.37cm,深さは3.24±0.71cm.

○個体数の変化
 1990年代後半は全国的に夏鳥が減少し,東日本を中心に亜種キビタキの減少も報告されている.ところが2000年代に入ると,キビタキの個体数が増えているという声が全国的に聞かれるようになった.なかでも山口県では,1980年代後半から2000年までに繁殖分布が6.1倍に増加した.
 個体数の増加の原因は定かではないが,キビタキは主として枯死木にある入り口の広い半開放性樹洞を利用して繁殖し,こうした樹洞は管理された植林地では少ないことから,林業の衰退や里山の放棄によってキビタキに適した営巣環境が増えたことが要因のひとつであると推測される.実際,放棄竹林が営巣環境として利用されることで,西日本において新たな繁殖地が成立した可能性がある.

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,全嘴峰長,ふ蹠長,尾長,体重
 ・鳴き声
 ・分布
 ・繁殖システム
 ・一腹卵数,卵サイズ,卵色
 ・抱卵・育雛期間,巣立ち率
 ・その他(生活史)
 ・食性と採餌行動
 ・若いオスの模様の個体差

有料会員の方は,こちらからキビタキ生態図鑑のPDFファイルをダウンロードできます
生態図鑑の一覧は,こちらのページでご覧になれます

 

Print Friendly, PDF & Email