前号では1970年代と1990年代に行なわれた鳥類繁殖分布調査について,紹介しましたが,その調査結果で「日本で4番目に減少している鳥」としてあげられたシマアオジの世界の状況について調べた論文が Consesrvation Biology誌に掲載されました。
シマアオジは北欧からカムチャツカまで,ユーラシア大陸北部全域で繁殖する鳥です。生息地各地200か所以上の文献や未発表データを解析することで,1980年から2013年にかけて,世界のシマアオジが90%も減少していて,その分布域が5,000kmも縮小していることがわかってきました。また減少の原因は中国での密猟と推測されました。
この研究を行なったのはドイツのKampさんを中心とした,イギリス,ロシア,日本の国際チームです。繁殖地そして越冬地の237か所のシマアオジのデータを用いて,世界のシマアオジの1980年からの個体数変化を推定しました。すると,シマアオジの個体数は加速度的に減少しており,1990年代半ばまでの減少率は20%程度でしたが,その後,2013年までに84.3-94.7%も減少していると推定されました。分布も縮小していて,特に分布の西端にあたるヨーロッパでは5,000kmも分布域が狭まっていました。
これだけ急激に減少しているので,環境の悪化では説明がつきそうにありません。何か死亡率が増加(あるいは生産率が減少)するようなことが起きていると思われます。シマアオジの繁殖地は広いですが,越冬地は狭く,ヨーロッパの個体も東南アジアへと渡って越冬します。その渡りの経路にあたる中国では,シマアオジが食用のために大量捕獲されています。以前,戦時中に中国東北部に住んでいた福井和二さんに話を聞いたことがあるのですが,その当時からシマアオジは大量に捕獲されていたそうです。渡りの時には群れで,草原の薮から薮へと渡っていくので,薮に網をかけておけば簡単に大量に捕獲できるため,シマアオジが狙われていたということです。シマアオジの減少を受け,1997年からは中国ではシマアオジの捕獲が禁止されました。しかし,数万羽の密猟されたシマアオジが警察に摘発されることが,今も続いています。これらのことから,密猟がシマアオジの減少の主要因と考えられます。シマアオジの個体群動体モデルに年間に個体数の2%が捕獲され,その割合が0.2%ずつ増加することを仮定すると,実際の個体数推移の推定値とほぼ一致したということです。
日本では,シマアオジのほかにカシラダカが減少しています。米田・上木(2002)の福井県織田山での標識調査では,網場の環境変化の影響も強いということですが,1970年代は1,700-2,700羽だったのが1990年代は数羽へと減少しています。カシラダカもシマアオジと同じような分布をしている鳥で,シマアオジ同様にヨーロッパでは急減しており,すでにいなくなってしまった地域もあるそうです。日本で越冬するカシラダカも,分布の西端のヨーロッパに影響が出ているように,東端の個体群も減少していて,日本で越冬する個体数の減少につながっているのかもしれません。今後の変化に注視し,海外とも情報交換していきたいと思います。